<争点を行く 横浜市長選2021>(4)上瀬谷の米軍施設跡地 「生きた博物館」の未来は

2021年8月6日 07時34分

豊かな自然環境が残る米軍上瀬谷通信施設跡地=本社ヘリ「おおづる」から

◆テーマパーク

 七月中旬の週末、横浜市瀬谷区の上瀬谷通信施設跡地内にある田んぼの周りで、小学生らによる「いきもの観察隊」が活動していた。地域の自然環境を次世代に引き継ごうと二〇〇六年に発足した市民団体「瀬谷環境ネット」が実施。年中〜小学五年の四人と保護者らは水辺や草むらの昆虫や魚、植物などを観察。「シジミチョウだ!」。見上げると、夏空にコチドリやチョウゲンボウも舞っていた。

上瀬谷通信施設跡地内で田んぼの生き物を観察する小学生ら=いずれも横浜市瀬谷区で

 「瀬谷の豊かな生態系を生きた博物館として次の世代に残したいが、もうそんな未来はないのかな」。同団体を主宰する宮島行寿(ゆきとし)さん(76)は肩を落とす。
 跡地は同区と旭区にまたがる二百四十二ヘクタールの広大な土地。一五年に米軍から日本に返還された。国有地と民有地が45%ずつで、残りは市有地。民有地の多くは農地として使われ、広大な農地景観と豊かな自然環境が残されている。
 市は跡地を活用して二七年の国際園芸博覧会(花博)の開催を目指しており、一千万人以上の有料来場者を見込む。花博後は、ほぼ半分の百二十五ヘクタールを「観光・賑(にぎ)わいゾーン」としてテーマパークを核とした誘客施設を設け、「農業振興ゾーン」「公園・防災ゾーン」を各五十ヘクタール、「物流ゾーン」を十五ヘクタールとする計画だ。相模鉄道瀬谷駅と結ぶ新交通システムの導入計画も進めている。
 テーマパーク誘致計画は相鉄ホールディングス(HD)が担っていたが、新型コロナウイルスの影響による業績悪化を理由に撤退したことが六月に明らかになった。三菱地所が引き継ぎ検討を進めているという。

◆生態系に影響

 観察隊が活動していた田んぼ周辺は観光・賑わいゾーンに含まれ、近くでは地面を削ったり、低地に盛り土をする工事が始まっている。宮島さんは「生き物がすむ場所を失い、周辺の川や地下水にも影響が出る」と指摘し、「当座の経済効果だけを見ている。子どもたちが豊かに生きられる将来のため、長いスパンで考えないと」。二人の子どもと観察隊に参加した瀬谷区の主婦森千佳さん(47)は「跡地を地図としてしか見ず、そこにある生命の営みを見ていない」と嘆いた。
 基地が返還される直前の一四年十月から一五年一月に同区が行った区民アンケートでは、回答した四百六十六人の約七割が「『緑』を享受する首都圏郊外の自然レクリエーション空間」を望んでいた。
 二十年以上前から基地返還と住民のための跡地活用を求めてきた「米軍上瀬谷基地返還と跡地利用問題懇談会」の筆頭代表委員高橋勝也さん(76)は「被害を受けてきた地権者や周辺住民が安心して暮らせるよう、テーマパークに固執せず、自然を生かして市民の要望に沿った計画に立ち返ってほしい」と求める。
 テーマパーク経営が専門の中島恵明治大兼任講師は「アメリカ型のテーマパークはアスファルトで平らに舗装し、外界から敷地を囲って世界観に没頭してもらう発想だが、環境を生かして花や農業体験をテーマにする施設もある」とした上で、「テーマパークの運営はハイリスク・ハイリターン。常に追加投資をしてリニューアルし続けないとリピーターが呼べず、一回だけの需要で終わってしまう」と指摘する。
 また、新交通システムに関し、世界有数の集客数のある東京ディズニーリゾート(TDR、千葉県浦安市)を沿線に持つJR京葉線を例に挙げ、「敷設には多額の費用がかかる。テーマパークに依存せず、通勤・通学客などで採算が取れる計画にする必要がある」と話す。(杉戸祐子)

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