あいまい契約「シフト」の穴 休業補償求め、司法の場に続々政府も補償義務指針示さず

2021年8月7日 06時00分
 飲食店のパートなどシフト制で働く非正規労働者が、勤務先の企業に休業手当などの支払いを求め、相次いで労働審判の申し立てや提訴に踏み切っている。コロナ禍による休業などで働く時間が限られ減収を余儀なくされているが、企業側は「シフト減は休業に当たらない」などと支払いを拒んでいるためだ。(山田晃史)

◆企業側「支払義務なし」と主張

 シフト制での就業日時は、企業が一定期間ごとにつくるシフト表で決まる。労働基準法は会社都合で労働者を休ませた場合、平均賃金の6割以上の休業手当を支払うよう定めるが、労働日時が明確ではないシフト制労働者について企業側は「支払い義務はない」などと主張。コロナ禍を象徴する労働問題になっている。
 「まいどおおきに食堂」や「串家物語」を展開するフジオフードシステム(大阪)のパート女性は先月、休業手当の支払いなどを求め横浜地裁に提訴した。昨年4~5月に店舗の休業で勤務が減った分の補償など約180万円を請求した。同社の弁護士は取材に「訴状を確認していないのでコメントできない」とした。
 カツ丼チェーンのかつや(東京)で働くパート男性も今月5日、コロナ感染を避けるために出勤を拒んだ期間の休業補償がされていないなどとして、東京地裁に労働審判を申し立てた。かつや側は取材に「話し合いは重ねており、労働審判でもしっかり対応したい」とコメントした。大阪府の写真スタジオで働くパート社員の女性も昨年11月、大阪地裁に提訴している。

◆「なぜ社員とパートで差をつけるのか」

 シフト制労働者への休業補償は企業の義務なのか―。コロナ禍で急浮上した問題が司法の場に持ち込まれるのは、労働契約の内容があいまいなうえ、政府も補償義務の判断を示していないためだ。飲食店などの休業が長引く中で生活困窮に陥る労働者は依然として多く、飲食や小売業を支えてきたシフト制労働の穴が露呈している。

労働審判を申し立て、記者会見する飲食店のパートの男性=5日、東京・霞が関の厚労省で

 「もともと平日5日間の固定勤務が続いていたのに、コロナ感染を避けるために欠勤した後、シフトが減らされ補償もない」。カツ丼チェーンの「かつや」に対して5日に労働審判を申し立てたパート店員の男性は憤る。契約書には勤務可能日が「月曜から金曜」と記され「シフトにより変動の場合あり」とのただし書きがあった。大幅なシフト減で収入は半減し、生活は苦しい。
 飲食チェーンのフジオフードシステムを提訴したパート店員の女性の契約も「勤務曜日はシフトによる」「週20時間未満」とあいまいだ。訴状によると、会社側はシフトが決まっていない期間の勤務日数減に対し、休業手当の支払いを拒否し続けた。一方、社員には兼業を認めていないのを理由に手当を支給している。女性は「生活のために働くのは社員もパートも同じ。なぜ差をつけるのか」と話す。

◆家計の「補助」から「主役」に

 シフト制は1週間や半月など一定期間ごとに作成される「シフト表」により、勤務日・時間が最終的に確定する働き方だ。企業は忙しさに応じて働く人を増減できるため、飲食・小売業を中心にシフト制の非正規雇用を増やしてきた。
 かつては主婦のパートや学生のアルバイトらが家計を補助する働き方だった。貧困問題に詳しい都留文科大の後藤道夫名誉教授は「単身者や世帯主の非正規労働者が増え、今は補助ではなく家計の柱になっている」と説明。コロナ禍で彼らの収入が激減して生活困難に陥る人が続出した。
 厚生労働省は、休業手当の費用を補助する雇用調整助成金を拡充し、企業に手当の支払いを促してはいる。しかしシフト未確定部分の手当の支払い義務があるかの指針を示すなど労使で争点になっている点までは踏み込まず、結果として支払いを拒む企業は後を絶たない。政府が労働者から直接申請を受けて支払う「休業支援金」も設けたが、企業側の協力が得られないために受給できない労働者もいる。
 労働審判と提訴の代理人を務める川口智也弁護士は「厚労省が休業手当の支払い義務について判断を示せば、こんなことにはなっていない。司法で白黒つけて、同じようなシフト制労働者の救済につながれば」と話している。

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