<カジュアル美術館>袋法師絵巻(ふくろほうしえまき)(部分) サントリー美術館

2021年8月8日 06時31分

一巻 江戸時代 17〜18世紀

 絵の中に、おかしな顔がのぞいている。
 一見、優雅な王朝絵巻。まず目を引くのは、女主人らしき高貴な女性だ。こちらを向いた顔には、みだれ髪がはらりと落ちかかる。屏風(びょうぶ)で囲われた、一段高い畳に伏せっている。女性の背後には、紅葉模様の赤い大きな袋。視線を下げると…。「え?」と、思わず声が出た。誰、これ。

袋に隠された法師(部分拡大)

 「ヌーボーとした表情で、人間というより妖怪のよう。どこか憎めません」とほほ笑みながら解説するのは、サントリー美術館学芸員の久保佐知恵さんだ。
 この絵は、南北朝時代に成立したとされる「袋法師絵巻」の一場面で、日本三大性愛絵巻のひとつ。作者不詳で原本は残っていないが、本作を含めて江戸時代に数多くの模本が作られた。
 絵の右側に目をやると、僧侶姿の若い男が、うろたえる侍女を前に寝所に侵入している。絵巻は漫画のコマのように、右から左に展開していく。つまり、この侵入した男=法師が、袋からのぞく顔の主だった。
 さて、絵を読み解いていくと−。女主人は左手を胸にあてている。絵に添えられた詞書(ことばがき)には、「胸が痛いから早く寝たい」。侍女の一人は灯火に手をやっているので、時刻は夜と分かる。実はこの女主人、侵入者の法師をひとまず袋に隠し、早く共寝したくて気がはやっているのだった。
 絵巻の続きでは、女主人と法師が交わる。さらに物語は展開し、法師の侵入を聞きつけた隣の若い尼が「男に飢えているのは皆同じ。私にもちょうだい」と言ってくる。袋に入ったまま隣へ運ばれた法師が、袋のまま一物を引っ張り出され、尼と交わる場面は本作のハイライト。笑いが込み上げること間違いなしだ。
 残念ながら今回は際どい場面の展示は一切ないのだが、「女の園に男が一人、しかも女性の方が積極的。あっけらかんとして、おおらかです」(久保さん)という雰囲気は十分に味わえる。
 エロさよりも、「放屁(ほうひ)合戦絵巻」に通じる滑稽さがある。男たちが尻をむき出しにして一斉に屁(へ)をこいたり、オナラを袋にためて大砲を撃つように噴射したり…。オナラの技や威力を競い合う様を描いたこの絵巻も、子どもから大人まで大人気だ。その昔、この絵巻の原本を京都の仁和寺で発見して大喜びし、模写させたのは皇族である後崇光院貞成(さだふさ)親王だった。しかも当時、七十代だったという。
 高尚とは程遠く、何ともバカバカしい。だからこそ体の奥底から笑いがわきあがってくる。人間はバカだから面白い。

放屁合戦絵巻(部分) 一巻 室町時代 文安6(1449)年写 サントリー美術館所蔵

◆みる 袋法師絵巻、放屁合戦絵巻は「ざわつく日本美術」展で29日まで展示中。サントリー美術館(六本木・東京ミッドタウンのガレリア3階)へのアクセスは東京メトロ千代田線「乃木坂」駅徒歩3分、日比谷線「六本木」駅と都営地下鉄大江戸線「六本木」駅直結。午前10時〜午後6時。火曜休館。一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 文・出田阿生
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