至福の空間「名曲理髪店」 西東京 レコードコレクション1000枚超

2021年8月9日 07時07分

レコードをかけながら散髪する堰信太郎さん(右)

 ゆったりと音楽を楽しめる名曲喫茶ならぬ「名曲理髪店」が西東京市にある。店主の堰(せき)信太郎さん(68)が1人で切り盛りする「レコード音楽床屋 セキ」。1000枚以上のレコードコレクションから、その日の客の気分に合わせて選曲する。「音楽に浸りながら散髪でさっぱりできる最高に気持ちいい空間」と常連客たちに愛されている。
 理髪店は一九六六年に堰さんの父が開業した。店舗は開業当時のまま。いすも三十年以上前から使っており、こぢんまりした店内はレトロな雰囲気。三つの散髪用いすのうち二つはレコード置き場と化している。「三つあるのは父母と三人で切っていた時のなごり。今は一人だから一つ使えれば大丈夫」と笑う。

使わなくなったいすが棚に

 三十年ほど前に堰さんが後を継いでから、音楽を前面に出すようになっていった。「最初は有線放送だったのが、だんだんレコードになっていってね。自作のスピーカーを使っていた時期もあるよ」。音楽好きが高じて、現在は英国の老舗、TANNOY(タンノイ)社製のスピーカーを設置している。

自作のスピーカー

 十五年前から通っているという近所の会社員、吉本昌志さん(44)のために堰さんがターンテーブルに載せたのは、アメリカのギタリスト、チェット・アトキンスの「From Nashville with Love」。柔らかなメロディーが空気を震わせると、ギターが趣味の吉本さんは「いいですねえ」と顔をほころばせた。
 「前回はビートルズのカバー曲をかけたから、今日はちょっと雰囲気を変えてみたよ」と堰さん。常連客の予約が入ると、どんなレコードをかけるかあらかじめ考えておくという。「お客さんの好みは大体分かってるから。青春時代の懐メロを喜ぶ人が多いけど、クラシック好きでいつも最初にブラームスの交響曲第四番を聴く人もいるよ」

客に合わせてレコードをセット

 堰さんのレコードコレクションは、一九七〇年代の洋楽、邦楽や映画音楽が充実。ビートルズのレコードはほぼすべてある。ほかにも、クラシックから昭和初期の歌謡曲、最近のゲーム音楽まで、幅広いジャンルがそろっている。「半分くらいはお客さんからもらったものなので、自分では買わないようなレコードもいろいろ集まりました」
 散髪後、堰さんは吉本さんにコーヒーを勧め、待合のいすに並んで腰掛け、音楽談議を始めた。寺内タケシとブルージーンズ、ローリング・ストーンズ、ビートルズ…。話しながら堰さんは次々とレコードを手に取り、真剣な表情で円盤に針を落とす。
 吉本さんは「堰さんは優しくて、町のお父さんのような存在。散髪の後で二〜三時間、話し込むこともあります。ギタリストごとの音色の違いのような深い話をしたり、音楽業界の豆知識を教えてくれたり」と話す。音楽へのこだわりだけでなく、堰さんの人柄も、客を魅了しているようだ。
<レコード音楽床屋 セキ>西東京市住吉町4の5の1。月曜と第1、第3火曜定休。電042(421)0405
文・林朋実/写真・池田まみ
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