神田神保町・古書店街「古くないよ」 ホームページ刷新 360度カメラで店内ぐるっと

2021年8月11日 07時03分

ホームページのリニューアルなどについて話す高山本店の高山肇代表(左)と矢口書店の矢口哲也代表

 古書店と聞けば、入った瞬間に堅物オヤジから一瞥(べつ)され、買う気があるか値踏みされる張り詰めた空間を思い浮かべるかもしれない。せめて事前に店の雰囲気が分かれば…。そんな声に応えるように神田(千代田区)の店主らが動いた。店内や書棚を、鮮明な写真と三六〇度パノラマ画像で見られるようウェブを刷新。古物を扱っているが、「実は新しい物に敏感」な気質を知ってほしいと願う。
 日本文学や宗教、外国書からアイドル写真集まで、幅広いジャンルの古書店が百三十店集まる神田神保町かいわい。大部分が加盟する神田古書店連盟を紹介するホームページ「ブックタウンじんぼう」は書籍の検索機能や地図も充実している。本のお供になる近くのカフェも調べられる便利さに、新たに加わったのが店内のパノラマビューだ。

店内に、ところ狭しと本が並ぶ矢口書店=いずれも千代田区で

 「古書店というと、古くさいとか頑固オヤジを想像すると思う。でも新しい物を常に採り入れてきたんです」。六月にウェブ刷新にこぎ着けた同連盟の前会長で「矢口書店」代表の矢口哲也さん(58)が強調する。
 約九十店が店内を公開。入り口付近からぐるっと中を見渡せる。さらに三十二店は「バーチャル神保町散歩」として、画面をタッチすると店の奥まで進むことができ、その場所からも周囲を見られるウオークスルー対応になっている。

古書店内の雰囲気が分かる360度ビュー(「ブックタウンじんぼう」ホームページから)

画面上で店の奥まで入って行けるウオークスルーで公開している古書店も

 「コロナ禍でなかなか街へ出られないご時世。でも来なくても、どんなものが売られているか分かる。全く新しい神保町のそぞろ歩きを体験してほしい」
 連盟の依頼を受け、店内撮影やウェブ運営を担っているNPO法人「連想出版」の高野明彦理事長(国立情報学研究所教授)がPRした。神田の古書店街には奈良絵本のような骨董(こっとう)品に近い高額品を扱う専門店もある。「敷居が高くて入れないような店でも、小遣いに関係なく、雰囲気をのぞける」と高野さんは笑う。
 今回の刷新で、英語と中国語による対応も新たに加わった。コロナ禍に伴う緊急事態宣言で古書店街は昨春、大部分が休業。秋の恒例イベント「東京名物神田古本まつり」も昨年は中止になった。矢口さんは「遠隔でも世界中から、古書店の状況を見てもらえるよう休業中に進めておくべきだと考えたんです」と話す。
 相談した相手が元千代田区議で区商店街連合会長も務める古書店「高山本店」の高山肇さん(74)。区が用意した「新しい生活様式」に対応するための補助金を使えるのではと助言を受けた。六百万円の支給が決まり、翻訳や三六〇度撮影の費用を捻出できたという。
 「コロナがなくても新しい技術はどんどん採り入れないと、とは思っていた」と念押しする矢口さんにとって、目下の危機感は古書店街で以前より大学生を見かけなくなったことだ。

古書店が並ぶ神保町かいわい

 付近は明治大や専修大、共立女子大など大学がひしめく有数の学生街。だが、「地域活性化などの勉強のために取材に来る学生さんに話を聞くと『(私的に)古書店に行ったことがない』という答えが多い」と明かす。そうした学生に魅力を届ける術は何か。「まずはネットを充実させ、遠隔でも店の雰囲気が分かるようにし、何より新しいことをやっていると感じてもらうこと」。ウェブ刷新も最大の狙いはそこにあった。
 「新しいことを採り入れる姿勢が、震災や戦争、バブルやインターネットという時代を生き続け、百年以上、神田の古書店街を守ってきた」と歴史を説く矢口さん。ネットが生活に根付いていなかった一九九六年に早くも古書店街としてホームページを設けた実績が言葉を裏付ける。先人たちの心意気も継ぐ今回の事業。「どこからでも神保町を感じてほしい」。一九一八年創業の老舗書店三代目は街への愛着をにじませた。
 文・井上靖史/写真・池田まみ
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