過去を話し生活保護申請<新宿共助>

2021年8月11日 07時13分

料金未払いのため電気を止められた小さな部屋で、読書をして過ごす男性=杉並区で

◆新宿共助 食品配布の会場から

 「ここで受け取る食品とパン店でいただくパンの耳が頼りです」。見るからに体調が悪そうな男性と出会った。七十三歳。杉並区のアパートから都庁前の食品配布の会場に一時間半かけて歩いて来たという。会場で測った血圧の数値が異常に高かった。ボランティアの医師から「病院で調べてほしい」と求められ、どうにもばつが悪そうな表情を浮かべていた。
 暮らしぶりが気になり、都議選の投開票から一夜明けた七月五日、男性宅を訪ねた。薄暗い部屋の広さは四畳ほど。コロナの感染予防のため、手を洗おうと流しの蛇口をひねったが一滴も出ない。「一年前から水道も電気も止まっています。水は公園でくんできました」。男性が水の入ったペットボトルを私に差し出した。「七十八キロあった体重が一年で五十二キロになりましてね。身長は一七〇センチで、体は骨と皮だけです」。小さな声で話し始めた。
 北海道出身で、大学進学と同時に上京。人材派遣や保険の仕事を転々とする人生だった。倉庫で働いていた昨年春ごろ、足腰を痛めて仕事を辞めた。コロナ禍になってからは、貯蓄を切り崩して生活してきた。
 アパートの家賃月額三万八千円は保証人の妹がしぶしぶ払ってくれている。妹とは長く会っていない。「会わせる顔もない」という。年金や健康保険の保険料は未払いがあり、ここ二、三年は病院にも行けていない。暗くなったら「このまま死ぬのか」と考えながら眠るという。
 それほどまでに困っているのなら、なぜ公的支援を頼らないのか。重ねて聞くうちに男性は「実は隠していたことがあります」と話し始めた。「東日本大震災で仕事を失った後、十年ほど前に社会福祉協議会で十万円を借りました。それがまだ返せていないんです。自業自得です」
 低所得者を支援する貸付金制度のことだろうか。それならば、役所に相談すれば解決できることですよ、と説明すると男性は「相談しようと思います」と声を詰まらせた。
 男性はこの日、区役所の窓口に行き、生活保護の利用を申請した。十万円の借金のことも職員に打ち明けることができ、少しだけ目が輝いたように見えた。後日、生活保護を利用できることが決まったという。(中村真暁)=随時掲載

食費がなくなった男性が、パン店でもらったパンの耳=都内で



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