「ウィシュマさんへのセカンドレイプだ」入管庁、DV専門家不在で最終報告書作成
2021年8月13日 06時00分
名古屋出入国在留管理局で収容中のスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん=当時(33)=が死亡した問題で、職員がドメスティックバイオレンス(DV)措置要領の存在さえ知らず、被害を打ち明けられても心身のケアを一切行っていなかった。最終報告書でもDV専門家の分析はなく、識者は「報告書はウィシュマさんの名誉を傷つけかねず問題が多い」と見直しを求めている。(望月衣塑子)
◆「元恋人が中絶を強要」打ち明けるも
DV防止法の改正を受け2018年1月、入管は「母国語の通訳を介し調査し、警察やDVセンター、NGOと連携」「配偶者からの暴力で旅券を所持してない時は在留資格を交付」などと対応が細かく整理された。
昨年8月、ウィシュマさんが入管施設に収容された際、「元恋人と同居していた時、殴る蹴るの暴力を受けていた。無理やり中絶させられた」と打ち明けた。昨年12月には、女性看守や看護師に「過去に子どもを堕ろした。おなかに異常がないか確かめたい」「何の薬かも知らずに服用を強いられた」と訴えた。
日本医師会幹部は「DVや堕胎でのトラウマ(心的外傷)で心的外傷後ストレス障害(PTSD)が発端となった境界性パーソナリティー障害に陥った可能性もある」と指摘する。
DV問題に詳しい武井由起子弁護士は「本人の了解がない堕胎はDVそのもので心身を深く傷つけるものだ」と指摘、さらに「報告書は、その影響はおろか、堕胎の有無もうやむやで専門家の見識さえなく問題だ」と批判する。
◆職員「痴話げんか程度の認識だった」
職員らは、入管のDV措置要領の存在や内容さえ認識しておらず、ウィシュマさんはカウンセリングなども一切受けられていない。今回の調査で、職員は「元恋人からの暴力は、殺されそうになったなどの深刻なものでなく、痴話げんか程度の認識だった」と述べており、DV被害への職員の意識の希薄さも浮かぶ。
武井氏は「職員に知識がない。そもそもDV措置要領に基づけば、収容ではなく原則仮放免にし、DVシェルターなどの専門施設で心身を保護し、ケアする必要があった」と話す。
入管は昨年10月、元恋人からの「スリランカで(自分の)家族がウィシュマにリベンジ(仕返し)するため待っている」との脅迫めいた手紙をウィシュマさんに手渡していた。
報告書で入管庁は「被収容者処遇規則37条2項に『通信文を検閲した場合、収容所等の保安上支障があると認める部分があるときは、部分を削除、または抹消し交付』とあるが、今回は当たらない」とした。
女性問題に詳しい伊藤和子弁護士は「被害者に加害者からの手紙を渡すのはあり得ない。トラウマへの心理的ケアもない。DVの専門性のない機関がDV被害者を収容することはあってはならないことがあらためて明らかになった」とする。
◆専門家でない有識者がDV被害を評価
遺族や弁護団によると、ウィシュマさんは元恋人に通帳を奪われ、銀行口座も使われ、携帯電話もSIMを抜かれて使えなかった。
入管庁は情報を把握していたが、報告書にはこういった記述は一切なく、逆にウィシュマさんが元恋人に定規を持って暴れた動画やウィシュマさんが怒って投げたコップや破った元恋人のパスポートの写真などを資料としてあげた。
さらに「DV被害者であったとまで認定できないのでは」「本件をDV案件として考える必要はないのでは」との指摘を載せ、報告書をまとめた。
伊藤氏は「典型的なDV事案なのに、なぜこのような結論になるのか。専門家でない有識者にDV被害を評価させるのは論外。男女は力の差があり、抵抗・自己防衛しているからDVでないわけではない。報告書は彼女へのセカンドレイプのようにも読め、問題だ。きちんと専門家を入れて、DVに特化した検証と改善策を打ち出すべきだ」と話す。
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