表現の場、保ち続ける 延期続く「コミックマーケット」今冬開催目指す 安田かほるさん(準備会共同代表) 

2021年8月14日 13時20分
 コロナ禍で、世界最大級の同人誌即売会「コミックマーケット」が一年半以上開かれていない。毎回募集するボランティアが会場設営から場内整理などまでこなしてきただけに、運営する「準備会」共同代表の安田かほるさん(63)は「間が空き、心のつながりが薄れてしまわないか」と心配。「商業ベースとは別に、誰もが自分の好きなものを発表できる独自の場をつくり続けたい」と、今冬の開催を目指している。
 取材に応じてくれた東京都世田谷区の事務所の棚には、これまでのコミケのカタログがずらりと並び、積み上がった段ボールには各回で新刊頒布された同人誌の見本誌がぎっしり。見本誌は毎年八万種類ほどのペースで増え、今は三百万種類はあるため、多くは都外の倉庫で保管しているという。一九七五年から四十年以上続く歴史を感じた。
 安田さんがコミケに初めて参加したのは学生だった七六年の第二回。萩尾望都(もと)さんや竹宮恵子さんら「花の二十四年組」が革新的な作品を発表した時期で、自らも少女漫画を描いていた。参加サークル数は四十弱と小規模だったが、運営スタッフも数人。「見るに見かねて手伝ったら、『じゃあ、次もよろしく』となって」
 当時の少女漫画人気や『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』などのアニメブームは、ファンの間に、作品を受け手として享受するだけでなく、二次創作などで「遊ぶ」楽しみ方を生み出した。『ぴあ』に代表されるミニコミ誌の流行で、若者が自分たちの表現の場を求める機運とも相まって、コミケの規模はどんどん大きくなっていく。
 広い会場を借りる都合上、有限会社コミケットが設立され、当初は別の会社で働きながら手伝っていた安田さんも転職。二〇〇六年にはコミケ文化の発展に貢献した準備会二代目代表の米沢嘉博(よしひろ)さんの後を継ぎ、三人の共同代表のうちの一人に就任した。
 夏冬の二回開催が基本となり、一九年の冬コミには四日間で、三万二千のサークル、延べ七十五万人が参加するまでに。この間、漫画やアニメに対する社会の見方も大きく変わってきた。「昔は『いつまで漫画読んでるの?』なんて言われたが、今は自分が好きなものを堂々と世間に言える」
 今では日本の強みともされる漫画やアニメなどのコンテンツ文化。コミケは「世界に認められる山頂を支える広大な土台」だと自負する。「参加者は読み手であり、書き手でもある。好きなものを見たい、知ってほしいとの思いが循環し、あらゆるジャンルがそろっているのが良さ」と笑う。
 そんなコミケを襲ったコロナ禍。東京五輪で会場が使えないため、初めてゴールデンウイーク開催とした昨年の夏コミは初の中止に。冬コミも今年の夏コミも延期を余儀なくされた。
 「定年後のお父さんみたいな思い。こんなにもコミケが生活の中心になっていたんだと、なくなってから初めて気付いた」
 オンラインでの「エアコミケ」も開いているが、参加サークル数はリアル開催に遠く及ばない。同人誌の印刷会社などの経済的損失も大きく、現場で培うボランティアスタッフのノウハウの喪失も危惧される。
 影響が多岐に及ぶ中、今月二日に第九十九回となる冬コミ(C99)の開催概要を発表した。「感染者の増加は気になるが、準備を始めないと中止もできない。とにかく一歩踏みだそう、と。『待ってました!』という反響が多く、ジーンとした」
 以前は大学卒業とともにコミケから離れる人が多かったが、最近は参加し続けたり、戻ってくる人が増えた。育児や介護などの経験をエッセー漫画の形で発表する人もいて「自分が介護を受けた体験を描く人も出てくるのでは。一生離れられない趣味だと思う」。
 同好の士が一堂に会する「ハレの場」は、即売会という体験を共有する場でもある。次の冬コミは抽選を導入するなどして来場者数を抑えざるを得ないが、「都などのガイドラインに従った上で楽しめるものにしたい」。延期が続く第九十九回が無事に開催できれば、次は節目の百回目。「何か、楽しいことをしたいね」と、苦境の中でも夢を描いている。 (清水祐樹)

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