コロナ禍のシニアおひとりさま 節約に目覚め いきいき 70歳女性、年金月5万円で貯金も!

2021年8月19日 07時41分

パソコンに向かう紫苑さん=いずれも東京都内で(本人提供)

 コロナ禍で外出や来客が減り、暮らしにメリハリを感じにくい昨今、節約生活を始めて「見えを張ることがなくなった」とプラスの変化を感じる一人暮らしのシニア女性がいる。息子の結婚式の1年延期も「私にとってはよかった」と語る彼女の真意は−。 (梅野光春)
 七月、一組の男女が都内で結婚式を挙げた。コロナ禍で、昨年六月の予定が延び延びになっていた。ところが、新郎の母・紫苑(しおん)さん(70)=名前はブログ上のハンドルネーム=は「私にとってはよかった」と話す。
 紫苑さんは三十代で離婚し、フリー編集者として働きながら、一男一女を育てた。バブル景気に沸いたころは、知人がルイ・ヴィトンのバッグを買えば自分も買い、「化粧品はやっぱりシャネル」という気分にもなった。
 子どもの独立を機に、都内に築四十年の二階建てを購入、二〇一六年から一人で暮らす。週末は息子が泊まりに来ていたが、昨年初めに婚姻届を出し、足が遠のいた。ちょうどそのころ、コロナ禍が降りかかってきた。
 これが思わぬ転機になった。知人と外食する機会がなくなった昨年二月末。せっかくだから、どの程度のお金で暮らせるか、実験のつもりで節約を始めた。
 と言っても、特別なことはしない。食材をスーパーで買い、一日三食を作る。「今日のご飯はこれで済まそうではなく、健康のためにしっかり食べる」。食費は昨年三月から月一万円ほどになり、節約前の半分以下に。料理の写真をブログに載せる日もあり、「安くおいしく、楽な料理」を楽しみながら追求している。

和風にも洋風にもアレンジできる新タマネギのスープ

おつまみにもなる三つ葉とはんぺんのポン酢和え

 趣味の和装との向き合い方も変わった。外出自粛が続き、同好の士と和服で外食する楽しみはお預け。おかげで新たに着物を買うことはなくなり、手持ちをリメークするなど、お金をかけない方向へシフトした。
 年金収入は月五万円ほど。それでも一年以上の節約生活で貯金が少し増えた。「今のような見えを張らない暮らしを前からしていれば良かった」と思った。
 こうして迎えた息子の結婚式。ふと、自分が人に接する際の感覚に違いを感じた。それは新郎の生い立ちを紹介する映像に別れた夫の写真が登場、「父親がおらず不安だった」と息子が心情を明かした時だ。
 「以前なら体面を気にして『なぜこんな映像を出すの』と取り乱したはず。でも、節約生活で世間体が気にならなくなったからか、素直に向き合えた」
 紫苑さんは十五年ほど前に乳がんを経験。再発の不安が頭をもたげる時もある。「一人でいて、もし倒れたら…」と心配も消えない。でも「今後のため、介護保険や施設のことも調べながら、できるだけ長く自宅で暮らしたい」と前を向く。こんな気持ちでいられるのも、「シンプルな暮らしに変わったおかげかも」と考えている。

◆オンライン生かし充実 東京大名誉教授・上野千鶴子さんに聞く

 コロナ禍でのシニア世代の一人暮らしについて、「おひとりさま」シリーズの著者で、社会学者の上野千鶴子さんに聞いた。
 ◇
 私もコロナ禍で外出を控えている。でも「読む」と「書く」さえあれば平気。以前は友だちと一緒に食事するのが好きだったけど、今はオンライン女子会のおしゃべりで満足している。
 オンラインはリアルの代用品だと思っていたが、やってみたら、メリットが多い。移動の時間や費用がかからない。お互いに自宅にいて、外よりリラックスできる。場合によっては子どもが出てきたりと、相手の私生活がかいま見えて、普段話さないような、プライベートな話もすることがある。
 学会やセミナーなどのイベントはオンライン化が進んだ。距離が遠い会場にも気軽にアクセスできる。複数のイベントの時間帯が重なったら、後から録画を見ることもできる。触れられる情報量が格段に増えたし、自宅でお茶を飲みながらでもいい。これらを考えると、いいことだらけ。私は以前から、ICT(情報通信技術)は高齢者と弱者の味方と言ってきた。
 反面、オンラインを駆使できるかどうかの「オンライン格差」が顕在化している。若い世代も同じ。パソコンとWi−Fiを持たない学生にまず機器を貸与しないとリモート授業が成り立たない大学もある。
 要介護の高齢者にとっても、コロナ禍は深刻。ケアはオンライン化できないから。コロナ禍を機に施設から在宅に切り替えた人もいて、在宅介護の需要が増えたが、人手が足りない。介護の現場は本当によく踏ん張っている。
 今年度の介護報酬改定はわずかに増額だったが、長期的には、政府が介護保険を利用抑制する意図はみえみえ。このままだと、保険でまかなえない介護を家族が負担する「再家族化」か、保険外のサービスを自費で負担する「市場化」へとシフトしていくだろう。
 一方で、現場の経験値は上がっている。いまでは「みとりに医者も看護師もいりません。私たち介護職だけでおみとりできます」と現場の介護職が言う。独居の高齢者の在宅みとりの事例も増えた。こうした現場の進化は、介護保険二十年間の経験のたまもの。
 だから家にいて死ぬことを怖がらなくていい。そんなにお金もかからないし。そのためには、介護保険の後退に歯止めをかけ、これまで積み上げた現場の経験を生かせる仕組みを支える必要がある。 (談)

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