自分自身を信じて 『挑発する少女小説』 文芸評論家・斎藤美奈子さん(64) 

2021年8月22日 07時00分
 赤毛のアン、若草物語、秘密の花園…。誰もが題名くらいは知っている少女小説の数々。あの名作に書かれていたのは、実はこういうことだったのか! 少女小説を、文芸評論の名手が斬新な視点で見直すと、こんなふうになる。謎解きの鮮やかさに、ワクワクが止まらなくなる。
 取り上げたのは世界でロングセラーとなっている九編。斎藤さんは「少女向けの物語といっても、決して読者の子どもをなめていない。だからみんなが夢中になって、百年たっても生き残っている」と語る。
 「子ども時代に愛読した本を完訳で読み、大人の視点で分析すると、新たな発見があったんです」。たとえば日本ではアニメが人気を博した「ハイジ」は、「資本主義」で読み解く。執筆されたのは十九世紀末。不毛の山岳地帯と恐れられたアルプスに鉄道が敷かれ、スイスが観光立国へとかじを切った時期に重なる。「ミルクやチーズの味に感激し、青空や山に歓喜するハイジは、いわば観光ガイドだった」
 ハイジはその後、貿易商の娘クララの遊び相手としてドイツに赴き、大都会で教養を身に付ける。そして多額の餞別(せんべつ)をもらってアルプスの寒村に戻る。近所の極貧の少年ペーターに文字を教え、おばあさんに白パンをあげる姿は、出稼ぎによる「富の再分配」だ。
 孤児院育ちの捨て子だった少女が、支援者のお金持ちと結婚してハッピーエンドとなる「あしながおじさん」。「私も昔読んだ時は、女の幸せは結婚といわんばかりの結末に裏切られた気がした。でも続編を読むと、大学で経済学や福祉を学んだ主人公が、劣悪な孤児院の改革を目指していたと分かる。結婚は、理想を実現するためのしたたかな手段だったわけです」
 本作で取り上げたどの少女小説も、主人公が困難にぶつかりながら、自力で壁を乗り越えていく。主人公の設定にみなしごが多いのも「自分一人の力で人生を切り開いていくドラマに、親は邪魔だから」。実はリアリズム小説なのだ。
 「女子どもと見くびられても、負けない。その姿に私たちは憂さを晴らし、逃避し、励まされてきたんじゃないか。一貫して描かれるのは、自分自身を肯定することの大事さ。昔の話かもしれないけど、今の人たちに読んでほしい」。少女小説を一冊も読んだことがない人も安心して楽しめます。河出新書・九四六円。 (出田阿生)

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