週のはじめに考える 道具でなく人間として

2021年8月22日 06時49分
 東京五輪も終わり、プロ野球の後半戦が始まりましたが、新型コロナウイルス禍による影響で外国人選手、いわゆる助っ人に、あるドミノ現象が起きています。
 六月、巨人のスモーク選手が突然退団し、帰国しました。米大リーグ通算百九十六本塁打、日本の野球にも慣れ、活躍し始めていたところでした。退団理由は「家族と過ごしたいから」でした。

◆助っ人の帰国ドミノ

 政府は、コロナの水際対策で昨年末以来、外国人の新規入国を停止。今年三月、選手本人の入国は「特段の事情」として認めたものの、例年なら問題のない家族の入国は認めない状態が続きました。
 父の日の六月二十日、西武は外国人選手らに故国にいる家族らのメッセージ映像を見せるサプライズ激励会を開催、選手らは号泣しました。しかし、その西武のメヒア選手も退団、オリックス、ソフトバンクの選手らも続きました。
 さすがに政府は今月になって、人道上配慮すべき事情があると判断し、選手の家族の入国も認める措置を適用する姿勢へと転じました。
 そもそも日本では外国人労働者の多くに家族の在留を認めていません。技能実習生に加え、二年前に施行された改正入管法で新設された、外国人労働者の大半を占める「特定技能1号」もそうです。
 家族帯同を認めないことについて入管庁は「子どもの教育やコストなどについて、国内で十分なコンセンサスが得られていない」と説明します。しかし、技能1号では最長で五年間にも及ぶ滞在期間中、家族と離れ離れでは酷です。
 背景には、外国人労働者を「人間」としてではなく「道具」として扱う考え方が透けて見えます。
 日本は一九九〇年代、日系二世や三世に就労制限のない在留資格を認めましたが、日本語教育に苦労するなど社会融和には困難もありました。そんな苦い体験も、家族帯同に慎重な姿勢の根底にあるのでしょうか。単身赴任は当たり前、という日本の考え方も家族に冷たい理由なのかもしれません。
 欧州諸国は紆余(うよ)曲折の末、外国人労働者に家族帯同の権利を認めるようになりました。移民問題に詳しい専修大学の大西楠(なみ)テア准教授は、家族生活の保護という人権保障重視の姿勢を指摘します。
 旧西ドイツは高度経済成長期、トルコなどから外国人労働者を受け入れました。単身が原則でしたが、その後、定住を目指した家族呼び寄せが相次いで問題となり、連邦憲法裁判所は一九八七年、「家族の保護」をうたった基本法(憲法)六条を根拠に、外国人の家族の絆に対しても配慮するべきだとの判断を下しました。
 さらに欧州連合(EU)は共通政策の一つとして、加盟国に「家族呼び寄せ指令」を出し、移民の家族にも滞在権を認めるよう求めました。これらの原則をもとにドイツは法整備を進め、現在、十分な資力やドイツ語等の統合講習への参加などを条件に正規に入国が認められた移民、難民の家族呼び寄せを原則、認めています。
 しかし受け入れはいつもスムーズとは限りません。二〇一五年、メルケル政権が寛容政策で多くの難民を受け入れた際には強い反発が起き、極右が勢いづきました。
 昨年六月には西部の食肉工場で、密集して不衛生な環境で働いていた中東欧からの出稼ぎ労働者ら千五百人が新型コロナに集団感染していたことが判明しました。
 外国人労働者らの人権という高い理念を掲げる欧州も、なお道半ばのようです。

◆家族はやる気のもと

 さて、日本のプロ野球ですが、幸いにも、コロナ禍による入国制限前にビザを更新し、家族と一緒の助っ人もいます。中日のビシエド選手です=写真。
 来日六年目。不動の四番打者としてチームを支え続けています。毎シーズン、日本滞在中は家族を帯同。長男は野球のドラゴンズアカデミーに所属するなど地元名古屋になじみ、チームを愛し、「家族がやる気の一番のもと」と話しています。
 人権の面だけでなく、モチベーションを保ち、能力を十分発揮してもらうためにも、家族の存在は欠かせないようです。
 少子高齢化は先進国共通の課題です。
 外国人労働者の必要性は今後も増してくるでしょう。各国との人材獲得競争に負けないためにも、外国人を家族をも含めた「人間」として扱うことが必要です。そのためのコンセンサスづくりに踏み出したいものです。

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