[夏の夏休み]北海道帯広市 小林靖之(30)

2021年8月22日 07時35分

◆わたしの絵本

イラスト・まここっと

◆300文字小説 川又千秋監修
[千切り]名古屋市天白区・会社員・54歳 伊藤ゆう子

 料理が好きだ。本格的ではなく、我流の家庭料理だ。
 仕事先へ提出する自己PR申告書に特技欄がある。資格も、一目置かれるような事も、何もない。
 でも何も書かないのも寂しいので、いつも「料理」と書く。当然、仕事内容と関係ないので、上司に「得意料理は何だね?」と聞かれた事は一度もない。
 でも、いつか聞かれたら、こう答えるのだ。
 「なんと言っても、千切りです。包丁で早く、細く、糸のように切れた時は実にうれしいんですよ。嫌なことがあると無心で、ひたすら千切りするとスッキリします。ハハハ!」
 だが、今年の上司との面談もきっと「効率アップして頑張ろう」かな。
 千切りの早さは確実にアップしているのだが…。

 趣味や特技に関する質問は時に厄介なものですが、これに「料理」の二文字で切り込む爽快感! そのスキルも今では名人の域に到達している様子。ところで、料理されているのは、いったい誰?

[敵の末路]岡山市北区・会社員・36歳 宮田則浩

 空き家の祖母の家を訪ねた。物を動かすたび、ほこりが舞う。ふと、左腕に痒(かゆ)みを感じた。
 ぶ〜ん
 咄嗟(とっさ)に音が聞こえた辺りを見回す。姿はない。どこだ?
 ぶ〜ん
 振り向きざま、目の前に浮かぶ敵を両手でパチン! 手のひらは綺麗(きれい)なままだった。素早いな。
 ぶ〜ん
 じっと目で追いながら近づき、パチン! 叩(たた)いた手の隙間から敵は上昇していく。俺を本気にさせたな。極限まで高めた集中力を維持し、敵を追う。
 狙いをつけ、叩こうとした瞬間…敵の動きが急に止まった。何重にも糸を張り巡らせた見事な巣だった。巣の主がゆっくりと絡まった獲物に近づく。
 複雑な気持ちで俺は敵を見つめた。
 ああ、俺の血も一緒に飲まれてしまうのだろうな。

 何げない場面からはじまる作品ですが、ラストの一文で、世界観が一気に拡大。左腕の小さな痒みを基点に、地球を丸ごと包み込む生命連鎖の網の目へと、読み手の思いは果てしなく膨らみます。


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