パラアスリートを支える企業の技術、社会も助ける

2021年8月23日 06時00分
 24日の開幕を目前に控えた東京パラリンピックでは、競技用車いすや義足に使われる最先端の技術が選手を支える。障害のある体の機能を高めるため選手とともに開発してきたそれらの技術は、パラアスリートのためだけでなく、人が自由に体を動かすのを助けていくと期待される。(神谷円香)

完成した競技用車いす「RDS WF01TR AT01」とテストドライバーを務めた伊藤智也選手=RDS提供

◆着座姿勢の「最適解」 競技だけでなく医療にも

 7月、工業デザインなどを手掛ける埼玉県の企業RDSが、パラ陸上で使う最新型の競技用車いすを発表した。F1レーシングチーム「スクーデリア アルファタウリ」と協働し、F1マシンのような色合いとデザインに仕上げた。東京大会日本代表の伊藤智也選手(58)=バイエル薬品=がテストドライバーを務め、2017年から進めてきたプロジェクトの完成形だ。
 杉原行里あんり社長(39)が「マシン」と呼ぶこの車いすの鍵は、千葉工業大学未来ロボット技術研究センターと開発したシミュレーターを使った、座る位置の設定だ。車いすをこぐ時の動作を分析し、個々人に最適な着座姿勢を割り出す。マシンはその理想の姿勢をとれるよう、座面の高さや背もたれの位置などをミリ単位で設定できる。
 60歳近い伊藤選手はシミュレーターで着座姿勢の「最適解」を得て、より速くなれる可能性を手にした。ただ杉原社長は「車いすにこだわっているわけではない。多くの人間は人生の3分の1は座っている。僕らは『座るを科学する』と言っている」と話す。どんな姿勢なら一番疲れないのか、腰や肩に負担がないのかを測ることは、誰にでも役立つ。
 シミュレーターは現在、医療機関などで使える汎用型を開発中で、国立障害者リハビリテーションセンターでリハビリに活用する話が進んでいる。杉原社長は「開発って、誰か一人のために頑張ってきたのが結果として多くの人のものに広がっていくと思う。初めから大多数のためだったら、このマシンやシミュレーターは生まれていなかった」と語る。

◆跳躍を支える部品 高齢者の歩行に応用

山本篤選手が以前使っていた義足で、自社製のアダプターを示す名取社長=埼玉県久喜市で

 「うちの技術が生かせるかも」とパラスポーツ分野に参入し、視野を広げた企業もある。同じく埼玉県でチタンなどの金属加工を手掛ける名取製作所の名取秀幸社長(52)は10年前、競技用義足で走る人をテレビで見て、その世界を知った。祖父の代から3代目、何か新しいことをしたいと考えていた。
 義足で走る人たちの集まりに顔を出すうち、選手側から義足のパーツの製作依頼が来るようになった。現在主に手掛けるのは、ブレードと呼ばれる金属製の足と、足の切断部分にはめるソケットとをつなぐ「アダプター」と呼ばれる部品。バネのようにたわむブレードに力を伝えるとともに、体重を支える強度も必要なパーツだ。
 海外メーカーは既製品が多い中、スポンサーとして応援もする日本代表の山本篤選手(39)=新日本住設=は、メダルを狙う走り幅跳びで自身の跳躍により適した形を求め、工場にも直接来て微調整をする。
 「自分はもうちょっとこういうのが欲しい、というのを供給できるのが中小企業の強み」と名取社長。今後、歩くことが難しくなる人が増える高齢化社会に向け、この技術を応用した製品の開発に励んでいる。

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