<炎上考>ムダ毛処理も包茎手術も…勝手に作られた商業的な「異性の意見」に縛られている 吉良智子

2021年8月26日 06時00分

掲示が拒否された蘇民祭ポスターのイメージ画

 肌の露出の多い季節になると気になる「ムダ毛」。電車内には脱毛を勧めるエステティックサロンや医療機関のポスターが増える。「脱毛した方が快適ですよ」とささやくような勧誘もあれば、「ムダ毛を見られたら一巻の終わり」というような脅迫めいたものまで、さまざまだ。
 ただ、脱毛広告のターゲットは圧倒的に女性である。わき、腕、足、果ては指の毛までと対象が広い上、毛は「なくて当たり前」だという締め付けは大変厳しい。季節が夏でなくても、袖や裾の丈が短い衣服であれば、腕や足は露出する。結局1年中気にして過ごす女性は多いだろう。しかし近年は、男性の「ムダ毛」に対する意識にも変化が生じているようだ。
 2007年、岩手県奥州市にある黒石寺で行われる「蘇民祭」のポスター掲示をJR東日本が拒否した。理由のひとつは、男性のひげや胸毛だったようだ。ポスターで1番大きく写っている男性は顔が上向きで、あごひげが目立つ。上半身は裸のため、広範囲に生えた胸毛も目に飛び込む。
 さかのぼれば1970年代、男性の胸毛はワイルドな男らしさの象徴だった。アメリカの俳優バート・レイノルズは、胸毛をはじめとした体毛をあらわにしたヌードを発表している。日本でも加山雄三が若大将シリーズなどで胸毛を披露している。それがいつの間にか、男らしさというよりは粗野なイメージに、社会の認識が変化してきたように見える。
 近年、胸毛やすね毛の脱毛を勧める男性用のエステティックサロンの広告を多く見かける。そうした宣伝の多くはなぜか女性の目線を意識したつくりになっている。「女性に見苦しいと思われる」と男性の恐怖をあおることで、新しいマーケットを創出しているかのようだ。たとえば男性の包茎手術のマーケティングがそうだった。青年誌を中心に「女性が嫌だと言っている」という「女の意見」が勝手に作られ、包茎手術ブームが生まれたという(澁谷知美『日本の包茎―男の体の200年史』)。
 女性も男性も、商業的な「他者目線」で押しつけられる身体イメージに縛られている。自分にとって心地良い身体のありかたを実現できる、そんな生きやすい社会になればと願う。

 きら・ともこ 美術史・ジェンダー史研究者

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