鉄道 地域の足維持は綱渡り<茨城県知事選 コロナ禍の現場から>(4)

2021年8月26日 07時50分

那珂湊駅でコロナ禍の苦境を語る吉田千秋社長=ひたちなか市で

■水の泡

 ひたちなか海浜鉄道の吉田千秋社長(56)は、廃線の危機にひんしていた湊線(ひたちなか市の勝田−阿字ケ浦、全長一四・三キロ)を再生させた立役者だが、新型コロナウイルス禍には「これまでの努力を打ち消した」と驚きを隠さない。
 関東平野の一部をなす県内の広大な平地には、大幹線のJR常磐線を筆頭に、つくばエクスプレス(TX)や関東鉄道、海浜鉄道などの鉄道網が張り巡らされている。それがコロナ禍では、外出自粛要請や学校の臨時休校、在宅勤務の影響で通勤・通学利用や観光客が激減した。
 海浜鉄道の二〇二〇年度決算も厳しかった。売上高に相当する旅客運輸収入は、前年度の64%に当たる一億三千五十万円。当期純損益は黒字から千六百万円の赤字に転落した。

■ネモフィラ

 特に痛かったのが、沿線屈指の観光スポット・国営ひたち海浜公園の低迷だ。ネモフィラが見頃の昨年春は臨時休園。園内で繰り広げられる国内最大級の野外音楽イベント「ロック・イン・ジャパン」は二年連続で中止された。現在も、今月末まで臨時休園中だ。
 利用客の回復が見込めない中、経費削減策を講じた。駅の営業時間を短縮したほか、勝田発の最終便の廃止や土日祝日便の削減に踏み切った。一方、昼間の運行間隔は通常四十分を維持する。吉田社長は「一本削れば一時間二十分に広がる。これ以上減らすと地域の足ではなくなる」と強調する。
 明治時代に開通した湊線は戦後、茨城交通が運行してきたが、マイカーの普及などで赤字が累積した。茨城交通は廃線を検討するものの、沿線市民が存続運動を展開し、二〇〇八年、第三セクター方式の新会社として新しいスタートを切った。
 富山県出身の吉田社長は、地元の第三セクター鉄道の利用者をアップさせた手腕を買われ、全国公募で海浜鉄道の初代社長に迎えられた。就任後、通学定期代の大幅値引きなどの施策を次々と打ち出した。一一年三月の東日本大震災で全線運行休止に追い込まれたものの、一七年度には黒字を出した。震災前の輸送水準を上回り始めた時、コロナ禍に襲われた。

■タイアップ

 二一年度の業績はいくぶん改善したが、四〜六月の旅客運輸収入はコロナ禍以前の前々年度同期の74%。吉田社長は「80%になれば前途が開ける」と前を向く。今年一月には、海浜公園前まで延伸する事業が国土交通省に認可され、二四年度の開業を目指している。
 交通インフラを担う鉄道会社は、国や自治体から補助を受けてきた。昨年春に収入が大幅に落ち込んだ際には、県から一千万円単位の支援金が交付された。新知事には継続的な後押しを望む。
 「サイクリングと鉄道をタイアップした体験企画も提案してもらっている。さまざまな政策で今後も支えてほしい」(出来田敬司)

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