<社説>大震災犠牲者 歴史直視して追悼文を

2021年8月27日 07時48分
 関東大震災から九十八年。今日までさまざまな教訓が伝えられている。震災直後のデマで、多くの朝鮮の人たちが殺害された痛ましい事件もその一つ。過去の歴史を直視し、再発防止を誓いたい。
 大震災で多くの犠牲者を出した墨田区の横網町公園には一九七三年、朝鮮人犠牲者追悼碑が建立された。震災を直接経験した人に加え、都議会全会派の幹事長も賛同する幅広い活動の結果だった。
 その後、毎年九月一日には追悼式典がこの公園で開かれ=写真は昨年の様子=保守、革新を問わず、歴代の都知事が追悼文を寄せてきた。多くの目撃者が生存しており、都知事からの追悼文に疑問の声はなかった。
 ところが小池百合子都知事は、就任翌年の二〇一七年の都議会で、追悼文の取りやめと「犠牲者は六千余人」と刻む追悼碑の撤去を求められ、この年以降、「全ての震災犠牲者を追悼する」などとして、追悼文を送付していない。
 大震災時の朝鮮人被害者の数は公式資料が少ないため把握が困難だが、数千人規模が通説だ。
 民間人の膨大な証言に加えて、政府も認めている。内閣府中央防災会議の「災害教訓の継承に関する専門調査会」が、〇九年にまとめた関東大震災についての報告書もその一つ。
 報告書は、「朝鮮人が武装蜂起し、放火」といった流言が引き金になって殺傷事件が起き、「虐殺という表現が妥当する例が多かった」と明確に記述している。
 さらに殺傷事件の背景には、「無理解と民族的な差別意識もあった」とも分析している。
 小池氏は、東京に多様性、人権尊重を根付かせ、真の共生社会を目指すと表明してきた。ならば、自分の言葉に恥じないように、誠実に行動すべきではないか。
 追悼文の取りやめは歴史にふたをする行為でもあり、虐殺否定の動きやヘイトスピーチを勢いづかせる可能性も否定できない。
 開催自体の賛否は分かれるが、東京五輪・パラリンピックが「多様性と調和」を理念とするならば、今年こそ小池氏は追悼文を送るべきである。

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