<月刊 SDGs 2021年8月号>地域つなぐ「防災遠足」

2021年8月28日 07時01分
 国連のSDGs(持続可能な開発目標)の目標11は「住み続けられるまちづくりを」。大都市は暮らすのには便利だが、災害時は人口が集中していることがリスクにつながる。
 芝浦工業大の学生による「すみだの‘巣’づくりプロジェクト」は「防災も街づくり」を掲げて活動する。荒川、隅田川に挟まれた東京都墨田区は軟弱地盤に木造家屋が密集し、水害や地震時の被害が懸念されている。
 プロジェクトは地域のつながりを深めることを目的としている。防災遠足もその一つ。災害時に避難場所となる公園や古民家カフェなどを巡る。避難経路を確認するとともに、街の良さを再発見するための取り組みだ。新型コロナウイルスの影響で昨年からオンラインでの開催となっている。

◆街の良さ 命の教訓 避難場所巡り共有

プロジェクトで作成した、東白鬚公園のマンホールトイレについての説明動画

 代表の山本紘平さん(21)は「学生時代に社会貢献したい」とプロジェクトに参加した。「墨田区は危険が指摘されている分、住民や行政の防災意識も高い。それが若い世代につながっていないのが課題」。地域の同世代と問題意識を共有する方法を模索する。
 防災遠足の最終地点は1982年完成の白鬚(しらひげ)東アパート。隅田川沿いに1キロ以上にわたって立ち並ぶ高層建築が、東側にある木造家屋密集地域で火災が起きた際、防火壁の役割を果たし、西側の東白鬚公園に避難した人たちの命を守る。
 火災や液状化で大きな被害が出た64年の新潟地震をきっかけに東京都が整備した。23年(大正12年)9月1日の関東大震災で、陸軍被服廠(しょう)跡(現墨田区)に逃げ込んだ人々が火災旋風で多数犠牲になった教訓も踏まえている。
 関東大震災直後から命を守るための都市計画は考えられていた。耐火性能を備えた復興小学校117校が建てられ、半数近くは地域の人の避難場所にもなる復興小公園が隣接して設置された。土地や財源が限られる中、学校を核とした地域再生の取り組みだった。
 旧小島小学校(台東区、現台東デザイナーズビレッジ)と小島公園のように面影を残す場所もあるが、多くは建て替えや廃校などで姿を消した。街に刻まれた命の教訓は、次の災害の備えにつながり「住み続けられる街」の土台になる側面もある。東京都市大の中島伸准教授は「物としての価値だけではなく、地域の人たちが文化として何を残したいと考えるかを行政は大事にすべきだ」と話す。 (早川由紀美)

◇再エネ&省エネで支出抑え地産地消

◆クラブヴォーバン代表・村上敦さん

仕事で滞在中の北海道ニセコ町で、持続可能な自治体づくりについて話す村上敦さん(ビデオ会議システムによるインタビュー)

 人口が減少する中、自治体を消滅させないために優先してやるべきことは何か。「持続可能な発展を目指す自治体会議」をつくって活動しているクラブヴォーバン代表の村上敦さん(50)=ドイツ在住=は、省エネや再生可能エネルギーに投資し、地域外に逃げていくエネルギー支出を抑えることだと提言しています。その分、地域内に循環するお金を増やすことができるからです。具体的な道筋を聞きました。 (聞き手・早川由紀美)

◆地域に仕事 失業減らすドイツ流

 -エネルギーの側面から地域を再構築する発想はどこから生まれたのですか。
 「もともと『教会の塔から見渡せる範囲で経済活動はやるべきだ』という欧州の保守的、伝統的な考え方があるんです。その考え方がエネルギーにも当てはめられている。北ドイツなどバルト海に面した所では、冬の間一定の方向で風が吹く。昔、粉をひいたように、もう一度風車を造って電気を作ったらいいんじゃないのという動きが農村の保守層を中心に1990年代に盛んになった。最初は地元の鍛冶屋さんなどが、手作りしていた」
 「ドイツではその後、緑の党が連立政権に参加し、再エネの固定価格買い取り制度や住宅の省エネ改修などの政策を強力に進めるようになった。『地域のものは地域で』がスローガンでした」
 -政策を進めた背景には何があったんですか。
 「失業問題です。製造業の工場が海外移転して空洞化が進む中、地域に高付加価値の仕事を生み出し、失業者を減らすことは自然の流れでした。日本では、そういう経緯が理解されないまま、買い取り制度だけが導入され、多くの場合、地方は場所だけ提供し、東京などの大資本に利益を吸い上げられるような形になっているのが残念です」

◆建物の断熱化 電気自動車の推進

 -日本の自治体はどういう順序で進めていけばよいでしょう。
 「三つあります。まず、地域の人が出資する太陽光発電は進めるべきだと思います。乱開発が問題になっていますが、太陽光発電そのものが悪いわけではありません。軒先や学校の屋根など設置できる小規模な場所はあります」
 「次に、自治体庁舎など公共の建築物を新築する際は(省エネにつながる)高い断熱性能を備えたものを建てるべきです。今は割高なわりに、トップランナーとはいえない性能のものを造っている。民間がモデルにして後に続いていけるような高性能なものを公共の責務として建築すべきです。公営住宅や学校などの断熱改修も、省エネの効果が高い。(熱中症対策で)学校のエアコン設置が進みましたが、断熱改修を併せて進めれば光熱費が抑制でき、子どもたちはより快適な環境で勉強できました」
 「3番目は電気自動車の推進です。ドイツではこの2年で急速にゲームチェンジが起こっている。自宅で充電できれば、電気自動車も選択肢になっています。日本でも近い将来起こり得る。自治体として、あらかじめどういうインフラをつくるかの構想をここ数年のうちに立てておく方がよいと思います。太陽光発電と連動させれば、地域内で生み出した電力で車を走らせることができます」
<むらかみ・あつし> 1971年岐阜県高山市生まれ。ジャーナリスト・環境コンサルタント。持続可能なまちづくりを考えるネットワーク「一般社団法人クラブヴォーバン」代表。ゼネコン技術者を経て97年にドイツに渡り、欧州の環境政策などを日本に発信。2015年に「持続可能な発展を目指す自治体会議」を設立。現在の正会員は北海道下川町、同ニセコ町、埼玉県横瀬町、同小鹿野町、熊本県小国町など9自治体。著書に「キロワットアワー・イズ・マネー」など。

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