<共にその先へ やまゆり園再建>(上)入所を選んだ大月さん 「慣れ親しんだ場所に」

2021年8月28日 07時28分

津久井やまゆり園に戻ることを決めた大月寛也さん(左)と、父和真さん=7月撮影、横浜市港南区で

 二〇一六年七月に入所者ら四十五人が殺傷された県立知的障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)で、事件後に再建された新園舎での生活が始まった。障害者の生活の場を巡っては、自立と社会参加を促すため施設から地域への流れがあり、県も「ついのすみかではなく、地域移行前提の施設」を目指すとうたう。入所を決めた家族、別の場所で暮らすことを決めた家族の姿を通じ、やまゆり園の現状と課題を探る。
 「やーちゃん、今日はかっこいい服だね」。七月中旬、入所者の家族会会長を務める大月和真さん(72)は、入所者が仮住まいしていた横浜市の施設で長男寛也さん(40)と面会し、声を掛けた。自閉症の寛也さんに言葉はないが大月さんの方を振り向き、表情が少し柔らかくなった様子だった。
 寛也さんは八月一日から同園に戻り、新園舎で暮らしている。新型コロナウイルス感染拡大の影響で面会はできていないが、以前と変わらず元気に過ごしていると職員に聞いたという。大月さんは「慣れ親しんだ場所に戻ることができてほっとしている」と胸をなで下ろした。

事件後に再建された「津久井やまゆり園」=相模原市緑区で

 同園が再建に至るまでには曲折あった。
 県は事件直後、家族会の要望を受け、現地に以前と同じ定員百五十人ほどの大規模施設を造る方針を示した。しかし、有識者や障害者団体から「地域移行の流れに逆行する」「時代錯誤」などと異論が噴出。県は再考し、一七年に地域移行の促進などを柱に小規模化した施設を現地と横浜市の二カ所に分散整備する再生基本構想をまとめた。
 また、約三年かけ、百十九人の入所者一人一人に、どこで生活し、どのような支援が必要かについて意向をくみ取る「意思決定支援」をした。その人の性格や好みなどの情報を集め、言葉で意思疎通が難しければ、絵や写真を見せてどんな生活の場を望むか指さしてもらったり、事件があった現地を訪れて表情を確認したり、グループホームでの地域生活を体験したりした。
 その結果、四月時点で同園に四十四人、十二月に入所が始まる予定の横浜市内の施設に五十七人が移り、十一人が地域生活に移行、七人が他の県立施設に入ることになった。同園の永井清光園長は「入所者に寄り添い、日常の支援の中で意思を確認しながら地域移行を目指していける新しいやまゆり園にしていきたい」と力を込めた。意思決定支援は今後も続ける。
 大月さんは「親が高齢化する中、医療的ケアなど支援が充実している施設はかけがえのないものとの認識を持っている家族は多い」とし、施設の必要性を感じている。一方で、「施設の外に出て地域と交流するなど社会との関わりを持ってくれたらうれしい。その中で施設以外の新しい暮らしの環境が良いという意思を示すのであれば、その気持ちを尊重したい」と話した。

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