関東大震災の朝鮮人虐殺の記憶を継承 証言集「風よ鳳仙花の歌をはこべ」が30年ぶりに復刊

2021年8月31日 12時00分
 1923年9月の関東大震災の際に起きた朝鮮人虐殺の記憶を継承するため、東京・下町の有志の手により出版された証言集「風よ鳳仙花ほうせんかの歌をはこべ」が、増補版となって約30年ぶりの復刊を果たした。虐殺の事実を矮小わいしょう化しようとする論調に危機感を持った市民グループが「正しい歴史を伝える責任がある」と企画した。(砂上麻子)

朝鮮人虐殺犠牲者の追悼碑を囲む慎民子さん(右端)、矢野恭子さん(右から2人目)ら「ほうせんか」のメンバー=東京都墨田区八広で

 東京都墨田区八広の荒川近くに2009年に建立した朝鮮人犠牲者の碑で毎年9月、追悼式典を行っている市民グループ「ほうせんか」の編著。小学校の教員だった絹田幸恵さん(08年没)ら、ほうせんかのメンバーが1982年から10年間をかけて震災や虐殺を記憶する約150人から聞き取った旧版の証言集に、近年の活動記録を加えた。
 記憶継承の活動は、絹田さんが82年、地元のお年寄りから「関東大震災では荒川の河川敷で、朝鮮人が殺されて埋められた」と聞いたのがきっかけだった。鎮魂のための発掘を実現しようと、ほうせんかの前身の団体が結成された。発掘では遺骨は見つからなかったが、その後、地域で起きた朝鮮人虐殺の調査活動が本格化することにつながった。

復刊された「風よ鳳仙花の歌をはこべ」

 証言集は関東大震災の研究に大きな影響を与えた。「9月、東京の路上で」(加藤直樹著)をはじめ、大震災関連の数々の書籍で引用がされた。ただ、刊行から30年近くが過ぎた本は絶版となり、入手困難になっていた。証言者も多くが亡くなっている。ほうせんか理事の矢野恭子さん(61)は「(虐殺を)見聞きした世代がいなくなり、歴史を伝える難しさを感じていた」と語る。
 朝鮮人虐殺を否定する本が相次ぎ出版される時代だ。墨田区の横網町公園で行われている朝鮮人犠牲者の追悼式典に、小池百合子都知事が2017年から追悼文を送るのをやめた。記憶の風化も心配されている。
 ほうせんか理事で在日韓国人2世のシン民子ミンジャさん(71)は「30年間で朝鮮人虐殺を巡る歴史観は後退した。加害責任の否定にあらがうには伝える努力を怠ってはいけない」と力を込めた。問い合わせは、出版社の「ころから」=電03(5939)7950=へ。

 ▽関東大震災の朝鮮人虐殺 1923年9月1日発生した関東大震災で朝鮮人が「井戸に毒を入れた」などのデマが広がり、自警団や軍隊、警察により多数の朝鮮人らが殺傷された。国の中央防災会議の報告書は、震災の死者・行方不明者約10万5000人の1~数%が虐殺の犠牲者だとしている。


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