政策活動費「使いたい放題」現在も 98~99年に森喜朗氏へ11億円...不記載告発でも「嫌疑なし」

2021年8月31日 18時19分
 20年前の2001年、東京地検に1件の告発状が届いた。対象は当時首相を務めていた森喜朗氏(84)。自民党幹事長時代に「組織活動費」名目で受け取った資金が政治資金収支報告書に記載されていないのは、政治資金規正法違反の疑いがあると訴えたのだ。その後、森氏は「嫌疑なし」で不起訴に。使途が明らかでないのに合法とされる政党の組織活動費は、「政策活動費」などの名で現在も続く。告発した阪口徳雄弁護士(78)は「この国の政治は何も変わっていない」と訴える。(木原育子)

◆20年前の告発

20年前の告発について語る阪口徳雄弁護士

 「簡単に言えば、政治家の裏金。アングラマネーということだ」。阪口さんが訥々とつとつと語り始めた。
 告発状によると、自民党は1998年から99年にかけ、組織活動費として計約106億円を各派閥の領袖りょうしゅうなどに支出したとされる。森氏には73回にわたり、計約11億円が出ていた。阪口さんらは、この資金が森氏の資金管理団体の収支報告書に記載されていないのは違法だ、と訴えた。
 「当時の自民党は、党幹部だけでなく、個々の議員にも400万、500万円を支出していた。数人の議員は収支報告書に記載していたが、ほとんどが今と同じように記載していなかった。なぜ記載していない議員がいるのかとの疑問が始まりだった」

◆森氏側「適正処理」

 阪口さんらは自民党に記載しなかった理由などを質問。「政治資金規正法に基づいて適正に処理され、毎年収支報告書で報告している」と回答があった。組織活動費については「党役員・党所属議員に目的を定めて支給されており、政策立案及び政策普及のための情報収集・調査分析、党組織拡大のためのPR活動等の政治活動に使われている」としていたが、詳細は分からなかった。
 阪口さんが代表を務める「政治資金センター」(大阪市)によると、衆院選があった96年は約74億円で、国政選挙がなかった97年は約29億円に減り、参院選があった98年は約59億円に増えている。党の活動に使うとされていたが、具体的な使途が国民に明かされたことはなく、長年政治家の「使いたい放題」だった。
 万一私的に使っていたとしても、国民には分からない。個人の懐に入れば雑所得になるが、「チェック機関がない。確定申告もないので、脱税の可能性さえ見過ごされてきた」と阪口さん。市民は1円単位で税務申告が必要なのに「政治家の特権」ではないか―と、検察官と激論を交わしたことを覚えている。
 だが、東京地検が出した答えは不起訴。処分理由は「嫌疑なし」だった。半世紀を超える弁護士生活で、国や国会議員を相手に数々の告発をしてきた阪口さんだが、「嫌疑なし」は後にも先にもこのときだけ。「愕然がくぜんとした。納税者の感覚からして明らかにおかしいのに、法律自体に問題があり、追及できない。この国の決定的な病巣を感じた」と振り返る。
 森氏側に取材を申し込んだが、側近は「取材は受けていない。全てお断りしている」と答えた。
 森氏への告発後も、自民党の組織活動費は政策活動費と名を変え、脈々と受け継がれてきた。09年の衆院選で敗北して下野した時は、政党交付金や献金が大幅に減り、政策活動費名目の支出も減少。11年には5億6000万円余まで落ち込んだが、12年の衆院選で与党に返り咲くと、13年からは再び10億を超える額が支出された。

◆見過ごされた「抜け穴」

 自民党だけではない。旧民主党も13年に政策活動費名目で2億5100万円を支出しており、旧民進党でも続いた。旧自由党も組織対策費として17年は1億6000万円、18年は7800万円を支出している。
 阪口さんは「自民党の政策活動費は当時に比べたら減っており、告発の意味はあった」とするが、こう続ける。「検察や国税も見て見ぬふりを続ける政策活動費は、『政治とカネ』の問題を語る上での本丸。政治家の長年のブラックボックスで、最もアンタッチャブルとされる問題です」
 そもそも誰からも指摘されず、合法に使える政策活動費などは、どうやって生まれたのか。
 可能にしたのは、1994年に成立した政治改革関連法だ。政党交付金の導入や小選挙区制への移行など、今に続く政治の土台が整った。
 93年の国会議事録を読み返すと、「企業・団体献金は政治腐敗の温床だ」「中選挙区制は政策不在で個人中心となりがち」などと激しい論戦が記録されている。88年のリクルート事件や92年の東京佐川急便事件など「政治とカネ」にまつわる事件が相次いだ時期。「自民党の金権政治に終止符を打つべく、熱病のような政治改革議論が1年以上続いたのです」と共産党中央委員会の大久保健三財政部長が話す。
 だが、議論は選挙や献金制度が中心で、政策活動費を生む「抜け穴」まで至らなかった。政治家は誰からの寄付も受けてはならないと定める政治資金規正法21条の2が盛り込まれたが、そこにこんな一文が加わった。
 「政党がする寄付には適用しない」
 「手直し程度」のたったこれだけの「ただし書き」が、巨額の政治資金の使途を誰にも報告せず、堂々と使うことを可能にした。神戸学院大の上脇博之教授は「頭の良い官僚か官僚出身の政治家が考えたのでしょう。私も含め、多くの専門家はその時は分からず、後になって気付いた」と振り返る。
 調査報道を専門に行うNPO法人InFact(大阪市)編集長の立岩陽一郎さんは「政策活動費として自民だけでも10億円を超えるお金が支出され、どう使われたのかを第三者が確認できず、それが法的に問題が無いということはおかしい。野党も規模は異なるが同じことをしており、市民感覚から離れている」と指摘し訴える。「秋には選挙もある。与野党で制度を見直す議論を始めてほしい」
 「政治とカネ」の問題は現在も繰り返されている。
 19年には参院選広島選挙区買収事件の過程で、自民党本部から河井案里元参院議員と夫克行元法相側に1億5000万円の資金が提供された問題が明らかになった。買収の原資は河井夫妻のポケットマネーではなく、1億2000万円の政党交付金と3000万円の党費などとされる。
 自民党の政策活動費を握る二階俊博幹事長は関与を否定。一方、ともに政権を運営していた安倍晋三首相(当時)や菅義偉官房長官(同)の名前は、政策活動費の支出先に出てこない。前出の阪口さんは「2人は、政策活動費と同じぐらい使途が見えない『官房機密費』を使える。党のお金は二階幹事長に任せ、きれいにすみ分けているのでは」と推測する。「事件は氷山の一角。政策活動費に象徴されるように、透明性が確保されていないお金があるから起きた」
 政治資金規正法1条は「政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにする」とあり、2条は「国民の浄財であることにかんがみ、収支の状況を明らかにする」と定める。阪口さんは訴える。
 「結局、この国の政治は20年前の告発のころと変わっていない。原点に立ち戻り、健全な民主主義を歩みだす最初の一歩にしてほしい」
     ◇     ◇
 「政治資金規制法」ではなく「政治資金規正法」。条文も政府の説明も、外部の目で正されるのを期待しているように見えるが、情報が公開されなければ絵に描いた餅だ。複雑怪奇な構造も永田町関係者にしか通じず、国民を政治から遠ざけている。抜本改正の時が来ているのでは。(本)

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