「科学的介護」手探りの船出 サービス利用者のデータ、国が分析し還元

2021年9月1日 07時13分
 介護サービス利用者の心身のデータを厚生労働省のデータベース(DB)に集めて分析し、介護技術やリハビリの改善に生かす「科学的介護」の取り組みが本年度から始まった。同省は「客観的な検証に裏付けられた介護を進め、利用者の自立支援につなげる」と説明する。事業所に支払われる介護報酬の加算により利用者も費用の一部を負担しているが、成果を実感できるのはまだ先になりそうだ。 (五十住和樹)
 このDBは「科学的介護情報システム(LIFE=ライフ)」。厚労省が別々に運用してきた、リハビリ効果を分析するDBと、心身状況や栄養、ケアの内容を分析するDBを統合し、データを一体的に蓄積、分析できるようにした。
 「フィードバックで新しい気付きが提供されたらサービスが向上し、ケアプランを見直すきっかけになると思う」。二十二のデイサービス事業所の利用者約七百人分のデータをLIFEに送っている介護大手「やさしい手」(東京)の執行役員、中村徹也さん(38)はこう話す。
 LIFEは、介護事業者がパソコンからインターネットを通じてアクセスし、利用者の起居動作、食事や排せつなどの日常生活動作(ADL)や服薬、認知症の程度、栄養やリハビリの状況などのデータを入力。同省が全国から集まったデータと比較し、事業所や利用者別の分析結果を返送する。このサイクル=図=を繰り返すことで介護技術の向上などを図る狙いだ。
 同省が示す活用イメージはこうだ。週三回、一時間ずつリハビリをしている要介護3の男性(80)の過去六カ月分のデータをLIFEで分析した結果、全国平均と比べてADLの指標が低く、食事摂取量も少ないことが判明。「リハビリの提供に合わせ、間食など食事の増量を推奨」とのフィードバックを実践し、ADLなどの改善につなげる−。
 ただ、やさしい手では、データ入力の際、自社の電算システムがあるが、LIFEの項目に合わせるため、約七割のデータをスタッフが手入力で行った。各事業所をサポートする北野まなみさん(32)は「残業して入力した」と振り返る。
 成果もまだ見えない。八月中旬の段階で同省から参考にできるデータは届いていない。中村さんは「データに基づき、その人に合った介護を提供できる」と期待するが、「精度の高いフィードバックがいつ実現するのか」と気をもむ。
 課題の一つは、比較的小規模な事業所のICT(情報通信技術)化だ。都内で地域密着型デイサービスなどを手掛けるNPO法人の担当者は、科学的介護の勉強会で「事務処理に職員一人雇うくらいの手間がかかると聞いた」と話す。愛知県で特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人は「LIFEの有用性は分かるが、データ入力量が膨大。時間や人を割けない」と、今も本格的なデータ入力はしていない。
 介護現場ではこれまで、ベテラン職員が「私の経験ではこの方法が効果的」などと後輩らを指導することが多かった。介護制度に詳しい東洋大准教授の高野龍昭さん(57)は「属人的な介護ではなく、国家レベルで何万人ものデータを蓄積し、根拠に基づいた介護が全国で行われるようになる」と評価する。一方で「前向きになる、仲間が増えるなど、LIFEでは評価されないデイサービスの有用性を軽視してはいけない」と指摘。利用者情報を手書きで記録する事業者も多いが、「ICT化は避けては通れない。業界団体のサポートが必要だ」と訴える。

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