コロナで注目のRNAワクチン 日本人研究者の45年前の発見が礎に「こんな形で利用されるとは…」

2021年9月1日 18時00分

RNAワクチンに欠かせない構造を45年前に発見した古市泰宏さん(森耕一撮影)

 新型コロナウイルスの変異株が広がる中、引き続きワクチンの高い効果が示されている。このワクチンの開発に、日本人研究者の1970年代の発見が大きな役割を果たしている。ワクチンが体内で働くのに不可欠な「キャップ」という物質だ。発見者の分子生物学者、古市泰宏さん(80)は「当時は、こんな形で利用されるようになるとは考えもしなかった」と話す。(森耕一)
 6月下旬、古市さんは自宅のある神奈川県鎌倉市内の体育館でワクチン接種を受けた。順番を待つ大勢の人を見て「こんなにたくさんの人の体に、私の発見が入っていくのか」と喜びを感じたという。

◆RNAは「謎だらけで面白いと直感」

 ファイザーとモデルナのワクチンはRNAワクチンと呼ばれ、いずれもメッセンジャーRNA(mRNA)という遺伝物質でできている。mRNAは、細胞がタンパク質を作るのに必要な設計図を細胞内のタンパク質工場まで運ぶ役割を果たす。まさにメッセンジャーだ。
 このmRNAに、ワクチン成分となるタンパク質の設計図を人工的に書き込んで接種し、体の細胞に届けて細胞内で成分を作らせる。まったく新しい発想だ。これまでのワクチンは、成分まで工場で作ってから接種するため開発に時間がかかった。それに比べて極めて短期間で完成した。
 古市さんは国立遺伝学研究所などにいた70年代、mRNAが体内で働くのに欠かせない構造を発見した。mRNAの先端にある「キャップ」という物質だ。mRNAの保護や情報伝達に関係する。
 「細長いRNAを列車に例えれば、先頭で引っ張る機関車がキャップ。それがないとmRNAはタンパク質を作るために走りだせず、列車自体も壊れてしまう」と古市さんは解説する。今では遺伝学の教科書にも載っている。
 「RNAは、情報を伝える使い走りのように見られていたが、謎だらけで面白いと直感した」と振り返る。ただ、壊れやすく「何十億人もを救う薬やワクチンになるとは考えもしなかった」という。

RNAワクチンの基本原理を確立した米・ペンシルベニア大のカタリン・カリコ博士(右)=Penn Medicine提供

 古市さんの発見から約30年後、米ペンシルベニア大のカタリン・カリコ博士がその可能性に挑んだ。2005年、mRNAを細胞に取り込ませるのに成功、それが新型コロナワクチンに応用された。2社のワクチンの先端にはキャップが組み込まれている。カリコ博士はノーベル医学生理学賞の有力候補といわれる。
 古市さんは2年前、RNA研究が盛んな岐阜大で後輩の研究者らとベンチャー企業を起こし、コロナウイルスなどへのRNAを活用した新薬の研究を続けている。RNAは設計や合成が容易なため、古市さんは「エイズやマラリアのような感染症、がんのワクチンもできるのでは」と期待する。

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