<社説>期間限定裁判 権利が妨げられないか

2021年9月2日 07時16分
 民事訴訟の迅速化のため、審理を半年以内に終結させる新たな訴訟制度が法制審議会の部会で検討されている。いわば期間限定裁判だが、国民の「裁判を受ける権利」が妨げられないか懸念する。
 新たな訴訟手続きは、法相の諮問機関の法制審で、民事裁判のIT化を進める部会が検討中だ。既に中間試案が出され、第一回口頭弁論からか、あるいは審理計画を作成してから、審理を六カ月に制限する二案がある。
 むろん証拠がそろって、争点の少ない事件が想定されている。原告と被告の双方が合意して初めて採用される制度でもある。
 裁判のIT化とはオンラインによる書面提出などだ。それとは無関係な期間限定裁判の規定を民事訴訟法改正案に潜り込ませること自体に疑問を感じる。
 何よりも憲法三二条で保障された「裁判を受ける権利」が妨げられる心配はないだろうか。
 裁判の当事者はまず事実関係を明らかにする必要がある。それには主張、さらに立証がきちんとなされるのが前提であるはずだ。
 そのために、証拠が出され、証人の取り調べ、現場検証などが行われる。審理期間が限定されるゆえに事実認定などが粗雑になっては本末転倒である。
 民事訴訟法では「裁判をするのに熟したとき」に判決をする定めだ。「六カ月」に達したら審理が打ち切られる前提は、この規定を無視するに等しい。双方の同意があるからといって原則を踏みにじっていいはずはない。
 これまでも裁判迅速化法によりスピードアップは図られた。一審は提訴から判決まで平均九カ月程度になった。審理を六カ月に限定する必要性があるのだろうか。
 当事者や証人らを尋問する「人証調べ」は減り、実施率は15・9%にすぎない。審理の密度が薄まっている印象を持たれても当然である。今回の提案が迅速化を名目にし、内実はスケジュールありきで簡便手続きにより訴訟処理することなら、粗雑な判決を誘発する恐れがある。国民の信頼を損ないかねない。懸念を覚える。
 人口比でドイツの裁判官は日本の一一・〇倍いる。米国は四・四倍だ。つまり日本の裁判官数はそれだけ少ない。裁判官が忙殺されているからという理由が背景にあるのなら、まず増員を図るのが正当な主張ではなかろうか。

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