<社説>菅首相が辞意表明 国民と向き合わぬ末に

2021年9月4日 06時37分
 国民の信頼を失った首相は、もはやその職に恋々とすることは許されない。新型コロナウイルス感染拡大への不安など、国民の声と誠実に向き合おうとしなかった傲慢(ごうまん)な政治の帰結でもある。
 自民党総裁である菅義偉首相=写真=が、総裁選(十七日告示、二十九日投開票)に立候補しない意向を表明した。事実上の首相辞意、退陣表明だ。総裁選には岸田文雄前政調会長のほか、複数が立候補を検討しており、国会議員に党員・党友を交えた投票で後継総裁が決まる見通しだ。
 総裁選は政党内部の手続きにすぎないが、現在、第一党である政党の党首選びでもあり、次の首相候補を決める選挙でもある。
 新型コロナ対策や経済、雇用、暮らしなど山積する問題の解決策を競い、国民に対して選択肢を示せるような、建設的な選挙戦とすべきである。

◆命の不安に無策続け

 二〇一二年の第二次安倍晋三内閣発足当初から官房長官を務めた菅氏は、体調不良で辞任した安倍氏の後継首相として安倍政権の継承を掲げた。菅氏の首相退陣は十年近くにわたる安倍・菅政治に一定の区切りを付けるものである。
 安倍・菅政治は端的に言えば、国民の代表で構成する国権の最高機関、唯一の立法府である国会を軽視し、国民の声や不安と誠実に向き合おうとせず、説明を尽くそうとしない政治である。
 菅氏が首相退陣に追い込まれた最大要因は、新型コロナ対策を巡る失政だろう。感染拡大を収束させる明確な道筋を示せず、対策が遅れ、迷走した。状況の厳しさを認識せず、楽観的でさえあった。
 発足当初、高水準だった内閣支持率は徐々に低下し、不支持率が支持率を上回る状況が続いた。
 菅氏は、東京五輪・パラリンピックを開催すれば日本選手が活躍し、ワクチン接種が進めば感染者数が減るので、政権に対する国民の厳しい見方も変わり、総裁再選も可能と踏んでいたようだ。
 しかし、感染拡大は収まらず、内閣支持率は反転しなかった。状況打開のため総裁選前に衆院解散に踏み切ろうとしたが、党内の反対で断念。二階俊博幹事長の交代を柱とする党・内閣人事を断行して求心力を高めて総裁選を乗り切ろうとしたが、これも阻まれた。
 感染拡大や五輪開催に対する国民の不安は、命への不安にほかならないが、菅氏は真剣に受け止めようとせず、有効策も打てず、党内の引き締めで劣勢を挽回しようとした発想自体、命の軽視と政権の断末魔を感じさせる。
 大型汚職事件を契機とする「平成の政治改革」は、政治権力や権限を、首相を頂点とする官邸など政権中枢に集中させた。
 政策の決定権を、官僚機構から国民に選ばれた政治家に取り戻すのが狙いだが、安倍・菅両政権で弊害も指摘されてきた。
 その一つが、官僚人事である。新設した内閣人事局を通じて官邸が積極的に関与するようになり、政権中枢の意向に従うものは重用され、従わないものは冷遇されるようになった。その結果、官僚の忖度(そんたく)が横行し、官僚機構の「根腐れ」とも言える状況を招いた。
 さかのぼれば財務官僚が公文書改ざんに手を染めた森友学園や、加計学園の問題であり、菅内閣に入ってからも、菅氏がかつて大臣を務めた総務省幹部への菅氏長男らによる過剰接待が発覚した。

◆政権選ぶのは私たち

 極め付きは、日本学術会議への人事介入である。新会員候補六人の任命を、従来の法解釈を勝手に変更して拒否し、いまだに明確な理由を開示していない。
 菅氏が官房長官時代に成立を強行した安全保障関連法は、歴代内閣が継承してきた「集団的自衛権の行使」を違憲とする憲法解釈を変更してつくられた。この解釈は国会での議論を通じて確立したものだが、国会の反対を押し切り、一内閣の判断で変更した。
 さらに、野党が憲法五三条に基づいて求めた臨時国会の召集も再三拒否してきた。国会を開かず、開いても議論を軽視し、憲法や法律の解釈を、政府の一存で変えてしまう安倍・菅政治は、これを機に終止符を打たねばなるまい。
 総裁選が終われば、十月にも衆院選が行われる。自民党総裁選が政策を競い合うのと並行して、各野党も政権選択肢となるべく、政権構想を練り上げねばなるまい。
 どんな政権が望ましいのか。それを選ぶのは自民党員ではなく、私たち有権者の手中にあることを確認しておきたい。

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