<食卓ものがたり>発祥の誇り 至福の口溶け モンブラン(東京都目黒区)

2021年9月4日 06時46分

「モンブラン発祥の店」のモンブラン。上質の栗や、4種類のクリームがふんだんに使われている=東京都目黒区で

 細くしぼり出された黄色いマロンクリームが、ドーム形の生クリームをぐるぐると覆っていく。山頂の万年雪のようなメレンゲを一番上に飾って完成だ。
 高さ十一センチ。「食べきれないかな」と思うほどの迫力だが、空気をたっぷり含んだマロンクリームは、ほどけるような口溶け。満ち足りた気分で完食した。
 大ぶりなサイズと形は一九三三年の創業以来変わらない。日本のモンブラン発祥の店として知られる東京都目黒区の「東京 自由が丘 モンブラン」。パティシエで専務の迫田直幸さん(32)は「『小さい頃に祖母が買ってくれたのを、今は孫と』という方もいて、うれしい限りです」と話す。
 創業者は、曽祖父の千万億(ちまお)さん。菓子作りと趣味の登山のため二十代で渡欧。名峰モンブランに感銘を受け、その名を屋号にとった店を三十歳で開いた。
 看板商品に考案したのが同山を模した栗の生菓子。欧州では古くから、生クリームに栗のペーストをのせたデザート「モンブラン」が食されていた。だが風味の強い渋皮や洋酒を使い、日本人好みの味ではなかった。そこで、栗の甘露煮を使ったきめ細かで上品な黄色いペーストを用いた。
 マロン、生、バターの各クリームをぜいたくにトッピングし、スポンジの中には、カスタードクリームで包んだ栗を丸ごと一粒。開業当初は珍しい洋菓子だったが、徐々に広まり、遠方から求める人もいた。
 直幸さんも父で三代目の一億(かずお)さん(63)も、初代の味を大切にしつつ、甘みを抑えたり、愛媛県産の中山栗を選んだりして改良も加えてきた。材料などの高騰で、十年で三百円近く値上げしたが、「買い求め続けてくれるお客さんのために伝統をつないでいきたい」。
 初代は「全国に広がってほしい」と商標をあえて取らなかった。今、さまざまなモンブランが日本中のケーキ店に並ぶ。「これだけのバリエーションが生まれたことを初代も喜んでいると思います」
 文・今川綾音/写真・木口慎子

◆味わう

 モンブランは1個720円。東京都目黒区自由が丘の店内のみで販売。イートインも可。店内には、創業者と親交のあった画家・東郷青児の絵が飾られている=写真。「初代は、まだ無名の頃から応援していた」と直幸さん。「美術館でお茶をしている気分」と客にも好評だ。(問)同店=電03(3723)1181。

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