パラ新競技のバドミントン、車いす2年目の里見紗李奈が初代女王<女子シングルス>

2021年9月4日 21時30分
 東京パラリンピックは4日、バドミントンの女子シングルス(車いすWH1)決勝が行われ、里見紗李奈(23)=NTT都市開発=がスジラット・ポーカン(タイ)を2―1で下し、金メダルを獲得した。今大会から採用されたこの競技で日本勢初の優勝を果たした。

女子シングルスで金メダルを獲得した里見紗李奈=いずれも国立代々木競技場で

◆高3の交通事故で…一時は進学も就職も諦めた

 天真らんまんな笑顔を涙でぬらし、23歳のヒロインが初代女王の座に就いた。里見は「信じられないくらいうれしい。この日のこの瞬間のために頑張ってきた」と喜びをかみしめた。
 高校3年生の5月、乗っていた車が壁に衝突し、脊髄を損傷。9カ月入院した。「若くて車いすだと人に見られる」と自宅にこもりがちになり、卒業後は進学も就職もしなかった。
 中学時代はバドミントン部。心配した父親に、地元のパラバドミントンチームの体験会に連れていかれ、男子車いすWH1の村山浩(47)=SMBCグリーンサービス=と出会った。
 1球打ち合ってすぐ、「この子は絶対に強くなる」と確信した村山。競技の経験者だからこそ、立ったときと車いすでの目線の違いに戸惑うはずなのに、一発で合わせてきたからだ。「しっかり練習したらパラリンピックを目指せるよ」とチームに誘った。
 里見は「そんなにしっかりやるつもりはないんだけどな」と、どこか冷めたもの。だが、試合で負けるたびに悔しさが込み上げる。気づけば、毎日体育館に足を運ぶようになった。
 2018年7月に国際大会デビュー。腹筋はほとんど使えないが、残された機能を最大限にいかし、体を後ろに大きく反らして相手コートの奥深くに鋭いショットを打ち込む。鍛えた走力と持ち前のセンスで、一気にトップレベルまで駆け上がった。

女子シングルス決勝でタイ選手を下した里見紗李奈

 「1年半で代表に入って、ぽんぽんっていって(活躍して)いいね」と言われ、傷ついたこともある。障害を受け入れられず、つらかった。人知れず努力も重ねてきた。「車いすになって良かったと思える人生を送りたいと思ってきた。今回の優勝はその1つになった」
 父、村山、応援してくれた人たち。試合中からみんなの顔が浮かんでいた。「勝ったよ」と早く伝えにいきたい。(兼村優希)

   ◇   ◇

◆因縁のライバル下し「夢みたい」

 最後まで諦めなかった思いの強さが、勝利の扉をこじ開けた。車いすWH1の女子シングルス決勝。宿敵スジラット(タイ)の返球がネットにひっかかると、里見は「きゃー」と握った左拳を振った。新競技の初代女王に輝き、「夢みたい。自分が表彰台の真ん中に立てていることが不思議」と目を丸くした。
 世界ランキング1位で臨んだ舞台。「車いすの動きがゆっくりな選手」と思っていた相手が、第1ゲームから前に出てシャトルを拾い、強烈なショットを打ち込んでくる。「研究されている。弱気になってしまった」。そのまま14―21で落とし、第2ゲームも9連続失点で一時は15―18と逆転される苦しい展開。「泥くさくいこう」とくらいつき、21―19でもぎ取った。
 「ここまで来たら2人の実力はほぼ一緒。勝ちたい気持ちが強い方が勝つんだよ」。コーチにかけられた言葉を反すうし、自分にハッパをかけるために声を出し始めた。コースを突いたショットが決まると「よっしゃー」「やー」と叫び続け、積極的にスマッシュを打ち込んだ。
 スジラットとの初対戦は、2018年7月の国際大会デビュー戦。低い弾道の攻めに対応できず、ストレート負け。「動き方わかんない。無理」。彼女に勝てない限り、東京パラの頂点なんて夢物語。「出られても2位か3位あたりかな」と思っていた。
 まだ車いすに乗り始めて2年。生来の負けず嫌いが顔を出す。毎日体育館を走り、車いす操作を磨いた。3回目の対戦だった1年後の世界選手権で初勝利。自覚が芽生え、「東京パラで金メダル」と目標を口にするようになった。
 これでライバルには3勝4敗と盛り返した。「金メダルを取らなきゃいけないプレッシャーにも勝てた」。重圧をはねのけ、ほほえむほおを涙が伝った。(兼村優希)

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