優秀な人材 離職防ぐ コロナ下でテレワーク急拡大 海外からも可、時差考えオンライン会議

2021年9月6日 07時26分

自宅でテレワークをする富士通の松本千尋さん=広島市内で(同社提供)

 新型コロナウイルスの感染防止策として急速に広がったテレワーク。中には社員に対し、勤務地以外や、海外でのテレワークを認める企業も出てきた。優秀な人材をつなぎとめ、または確保するための手だてにもなっているようだ。(河野紀子)
 コロナ禍前の二〇一七年度から、テレワークを導入するIT大手の富士通(東京)。昨年の流行拡大までは週一回利用する人が四割程度いるだけだった。しかし、原則テレワークの方針が打ち出され、九割超が週一回は在宅勤務をするようになった結果、出勤率は二割以下になった。
 さらに、昨年七月には所属先から離れた場所に住み、ほとんど出社の必要もないテレワークを認める制度も導入。新幹線を使って遠距離通勤をしている人、単身赴任をしている人、介護や配偶者の転勤といった家庭の事情で転居した人−が対象だ。グループ企業を含めた国内の全社員約八万人のうち、現在、この制度を使うのは千二百人ほどだ。
 東京本社広報IR室の松本千尋さん(32)は、その一人。夫の転勤に合わせて広島市に引っ越した昨年十一月以降も、光熱費として月五千円の手当を受け取りながら、引き続き自宅で社内報の仕事を担う。同僚とのやりとりは電話やメールだ。
 東京本社には一度も出勤していない。「夫が単身赴任をすることもなく、二歳の長女と家族三人で暮らせてありがたい」と話す。人事担当者は「優秀な人材の離職を防げる」と手応えを話す。
 特例的に海外でのテレワークを認めたのは、美容関連機器メーカーのタカラベルモント(大阪市)だ。今年六月、英国人男性との結婚を決め、ロンドン近郊に移住した平岡三季さん(41)は、現地で広報室長の役職のまま働いている。
 同社は昨年四月にテレワークの仕組みを導入したばかり。ノウハウがあったわけではないが「最年少で広報室長に就くなど非常に優秀。本人も仕事を続けたい意向があった」と冨谷明宣取締役は振り返る。
 日本と英国の間には、夏は八時間、それ以外の時季は九時間の時差がある。平岡さんは現地時間の午前七時(日本時間午後三時)からオンライン会議システムを使ってミーティングに参加。それ以降は、企画書を作ったり仕事の指示をするメールを書いたり。すぐに連絡が取れない時間が長いため、部下五人にある程度の判断権限を与え、結果を平岡さんに報告する仕組みに変えた。就労ビザは、同社の現地法人の仕事を兼務することで取得した。
 冨谷取締役によると「テレワーク導入後、遠隔地での勤務という条件で、豊かな経験を持つ人材を中途で採用できたケースもあった」と効果を話す。平岡さんは「テレワークで多様な働き方が可能になった。望まない離職をせずに済む人が増えれば」と喜ぶ。
 東京商工リサーチの調査によると、国による二度目の緊急事態宣言中の今年三月、テレワークを実施している企業は四割近くに上った。立教大経営学部教授の中原淳さん(45)は「コロナが収束しても、この流れは止まらない」と指摘する。
 その上で、テレワークの良さを「時間も場所も選ばない点」と言う。総務省の一七年の就業構造基本調査によると、過去五年間に家族の転職・転勤などを理由に離職した正規社員は、男女合わせて九万三千九百人にも。「企業は今を好機と捉え、働き方の選択肢を増やすことが優秀な人材を確保するには必要」と話す。

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