寅年を前にアムールトラに密猟の脅威 十二支人気のロシアだが…根強い中国の漢方薬需要

2021年9月6日 17時00分

ロシア極東に生息するアムールトラ=沿海サファリパーク提供

 ロシア極東に生息する絶滅危惧種のアムールトラが、密猟に脅かされている。背景にあるのはトラを漢方薬とする中国からの引き合いだ。狩猟法改正でハンターの標的になる恐れも指摘されている。とら年の2022年、トラを待つのは吉か凶か。(沿海地方ウラジオストクで、小柳悠志)

◆600頭以上が生息、個体数は安定

 針葉樹林「タイガ」が広がるロシア極東。タクシー運転手ユーリーさん(47)によれば、トラは普段はタイガに潜み、時に道路にも出没する。
 生息数は沿海・ハバロフスクの2地方とユダヤ自治州で計600~630頭を数え、ここ6年で70~90頭ほど増えた。アムールトラ・センターの広報は「ロシアはトラが増えている世界でもまれな国」と胸を張る。

来年の寅年にちなんだトラグッズが並ぶモスクワの市場=小柳悠志撮影

◆来年、保護の課題話し合う「トラサミット」

 ロシアは日本と同じく十二支の動物カレンダーや置物が人気。寅年の来年はウラジオストクで政府主導の「トラサミット」が予定され、国際的なトラ保護の課題が話し合われる。ウラジオストクはトラの像や壁画があふれる「トラの街」だ。

来年、トラサミットが予定されているウラジオストク=小柳悠志撮影

 アムールトラの個体数安定には長い年月を要した。
 政府は10年、トラの保護戦略を採択、家畜がトラに襲われた場合、住民に補償金を出すなどの取り決めもつくった。それ以前は年50~60頭が密猟で殺されていた。
 ところが隣の中国は18年、トラの骨などを医学研究や治療目的で使うことを合法化する方針を発表。トラを漢方薬に使うことを是認する動きに環境保護団体からは非難が続出。中国へのトラ密輸も疑われるようになった。
 密猟の現場が明らかになるのはまれ。それでもアムールトラ・センターによると昨年は少なくとも10件ほどの密猟が訴追された。禁錮5年2月に加え、230万ルーブル(約350万円)の罰金を科された犯人も。漢方薬需要を裏付けるように、トラの爪や歯を国外に持ち出そうとした密輸犯も摘発されている。
 沿海地方の住民からは「貴重なトラを商品とみる中国の姿勢が密猟を誘発している」との声が上がる。そもそもトラに薬効があるかも明らかでなく、トラがヒトの欲望に振り回されている格好だ。

◆改正狩猟法による「例外」で狩られる恐れも

 ロシアでは8月、改正狩猟法が施行され、絶滅が懸念される動物の猟が、公衆衛生の確保や人命保護など「例外的な場合」に限って許可されることに。法改正を推進した議員グループに狩猟愛好家がいたことから物議を醸した。独立系メディア「メドゥーザ」などは「例外」を盾に、富裕層が絶滅危惧種の動物を狩る危険性を報じている。
 環境保護団体グリーンピース・ロシアのミハイル・クレイドリンさん(51)は「トラが大量に殺される懸念はないが、例えば毛皮を欲しがる人が『例外』にかこつけて、行政から捕獲許可を得る事態は十分にあり得る」と説明する。

アムールトラ(シベリアトラ) ロシア極東を中心に生息し、日本では各地の動物園で飼育されている。体重は最大300キロとネコ科では最大。餌は野ウサギ、イノシシ、熊、シカなど。世界自然保護基金(WWF)ロシアによると、魚やエビも捕獲する。氷点下40度の寒さにも耐え、雪原でも最大時速80キロメートルで駆ける。ロシアでは帝政期、黒海とカスピ海に挟まれた南部カフカス(コーカサス)地方にカスピトラが生息していたが、狩猟などで絶滅したとされる。

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