武漢の惨状伝えたら逮捕…中国、コロナ初期対応で厳しい情報統制 遺族の監視も

2021年9月8日 10時23分
 中国湖北省武漢市での新型コロナウイルスに対する初期対応をめぐり、中国当局はなおも厳しい情報統制を続けている。中国がウイルスに勝利したという当局の歴史記述を死守するためだ。真実を伝えようとした記者への弾圧やITを使った監視は緩む気配がない。(北京・中沢穣)

9月1日、ロンドンの中国大使館前で、張展さんの釈放などを求める王剣虹さん=本人提供

◆ハンストで体重は半減

 感染初期の武漢の惨状を市民記者として報じた元弁護士、張展さん(38)は昨年5月に逮捕された。それ以降、ハンガーストライキを断続的に続け、体重は逮捕前から半減。178センチと長身にもかかわらず、40キロに満たない。
 「身の回りで起きた罪悪と不正義を無視できない。この社会で生きる人々の苦しみを座視できない。うそや欺瞞を受け入れられない。暗黒とともに生きることを望まない」
 張さんへの支援を訴えている英国在住の人権活動家、王剣虹さんによると、張さんは昨年末の判決前に、ハンストを続ける理由を明確に語った。ハンストは1年以上に及び、「命をもって当局の罪を糾弾する」(王さん)姿勢を今も貫く。

張展さん=王剣虹さん提供

 張さんは昨年2月、上海から都市封鎖中の武漢に入り、患者が廊下にあふれる病院や、夜も明かりが絶えない火葬場、当局を非難して軟禁された市民などの状況をインターネットで伝えた。配信した動画で張さんは憲法が保障する「言論の自由」に何度も言及し、感染対策を口実に法的根拠を示さないで人々の権利を制限する当局を批判した。
 しかし昨年12月、「真偽不明の情報を流し、社会を混乱させた」として公共秩序騒乱罪で懲役4年の判決を受けた。当時すでにハンストによって衰弱し、公判には車いすで出廷した。
 現在は上海市内の刑務所で服役するが、家族との接見などはコロナ対策を名目に厳しく制限されている。今年8月2日、張さんの母、邵文侠さん(65)はほぼ半年ぶりに張さんの声を聴いた。健康を案じ、食事をとるように勧める邵さんに対し、張さんは電話口で「罪を認めない。なぜなら無実だから」とハンストを続ける決意を話した。

◆体調悪化でのどに挿管、流動食を

 邵さんによると、張さんは胃潰瘍と逆流性食道炎を患い、すでに自力で立ち上がれない。8月上旬には体調が悪化したため、刑務所内の医療施設に11日間収容された。王さんによると、施設内では四肢をベッドに縛り付けられ、管をのどに挿入して無理やり流動食を流し込まれるという。
 張さんの家族らは当局に対し、保証人を立てて一時出所し、入院する措置を求めている。しかし、王さんは「ハンストをやめて罪を認めるという政治的な取引に応じることが事実上の条件」と指摘する。懲役11年の服役中に一時出所した入院先で死亡したノーベル平和賞受賞者の人権活動家、劉暁波氏らを例に挙げ、「多くの政治犯は手遅れになるまで十分な医療を受けられない」と訴える。
 言論統制を徹底する当局は、武漢から真相を伝えようとした複数の記者の拘束を続ける。一方で官製メディアは「防疫戦において偉大な勝利を収めた」とする宣伝工作を緩めていない。

◆「適切に情報開示していれば、死ななかった」

 新型コロナで家族を失った遺族も沈黙を強いられている。武漢出身の張海さん(51)の父、張立法さん=当時(76)=は昨年1月中旬、自宅のある広東省で骨折し、公費で治療を受けられる武漢に戻った。しかし新型コロナに感染して約2週間後に亡くなった。

国際人権団体などへ支援を求める書簡を手にする張海さん=本人提供

 張海さんは「当局が適切に情報開示していれば、父は死ななかった」と地元当局の責任を追及する。しかし裁判所は張海さんの訴えの受理すら拒んでいる。
 張海さんは8月に広東省から武漢を訪れた際、5日間にわたり、当局によって軟禁の状態に置かれた。携帯電話の電波や車のナンバーで監視されているとみられる。張海さんは「何の根拠もなく個人の自由が奪われる。中国は法治国家であってほしいが、失望しかない」と怒りを口にする。

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