敗残兵の姿、リアルに 日本軍玉砕「ペリリュー島」描いた異色の戦争漫画が完結 

2021年9月8日 17時00分
 かつて日本統治下にあった西太平洋のペリリュー島(現パラオ共和国)で1944年、日米両軍が繰り広げた激戦を題材にした漫画「ペリリュー―楽園のゲルニカ―」(白泉社)の単行本最終巻の11巻が発売され、物語が完結した。かわいらしいキャラクターと、凄惨な戦闘シーンなどのギャップの大きさもあって異色の戦争漫画として反響を呼び、完結と同時にアニメ化も決定。作者の武田一義さん(46)は「結果的には、戦争の記憶継承の役割を担うことができたかもしれない」と振り返った。(小松田健一)

「ペリリュー―楽園のゲルニカ―」の一場面。生き残った日本兵たちは敗走を続ける©武田一義/白泉社

◆回を重ねるごとに読者も支持

 天皇、皇后両陛下(現在の上皇ご夫妻)が2015年、戦没者慰霊のためペリリュー島を訪問された。この慰霊訪問に興味を持ったことが、武田さんが執筆を始めるきっかけとなった。
 物語の主人公は、漫画家を志す若者の一等兵・田丸均。米軍が上陸して激しい戦闘となり、日本軍司令部が壊滅した後も、田丸や戦友たちは苦闘を続ける。
 白泉社発行の青年漫画誌「ヤングアニマル」で16年2月に連載開始。人気が出なかった場合、日本軍が玉砕した時点での終了も想定していたが、回を重ねるごとに読者の注目を集めるようになった。武田さんは「読者の支持をいただいて、思っていた通りのスケール感で完結できた」と、ほっとした表情で語る。

作者の武田一義さん=白泉社提供

◆極限状態なりふり構わない生き様

 おとなしく真面目な主人公、勇敢で銃の腕も優れた戦友、部下を守るため心を砕き、日本の勝利を信じ反攻の機会をうかがう若き将校、機を見るに敏だが、どこか憎めない下士官―。登場人物は多彩だ。常に死が身近な極限状態での、なりふり構わない敗残兵の生き様が、読む人を引きつける。
 「(登場人物)全員に共感していた。それで初めてその人を人間として描ける。漫画のキャラクターを通して、あの時実際その場にいた人に近づいていくスタンスだった」
 武田さんは戦場の実相をリアルに描くため、生還者への取材を重ね、島を2回訪ねた。食料や水が満足に手に入らない小さな島で生き抜いた事実を「どれぐらい大変だったのかは想像するしかない。自分の想像力が追い付いていたのか、ちゃんと描けていたのかという気持ちは今もある」と述懐する。

 ペリリュー島の戦いについて研究した著作があり、連載開始当初から軍事面の考証などで協力した太平洋戦争研究会の平塚柾緒さん(84)は「1番目の読者としていつも見事だと感じていた。キャラクターが自由自在に動いて物語に厚みを加え、引き込まれた」と絶賛する。
 武田さんは現在、脇役を主人公にした外伝の連載に取り組み、本編で描き切れなかったサイドストーリーを展開中だ。物語の幅はまだ広がっていく。

 ペリリュー島の戦い フィリピンの東に位置するパラオ諸島・ペリリュー島は太平洋戦争中、大規模飛行場のある日本軍の重要拠点だった。米軍は1944年9月15日、約4万人の兵力で上陸。約1万人の日本軍守備隊は上陸戦で米軍に大きな被害を与えたものの、最終的に物量で勝る米軍に圧倒された。日本軍は11月27日に玉砕したが、生き残った兵士が散発的な抵抗を続けた。生還者は200人程度とみられる。最後まで残った34人の投降は終戦後の47年4月だった。

ペリリュー島で、野ざらしになったままの旧日本軍の「九五式軽戦車」両側のキャタピラー=伊藤遼撮影


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