「非モテ」からはじめる男性学 西井開著

2021年9月12日 07時00分

◆「からかい」の権力構造分析
[評]大前粟生(作家)

 「なぜ自分には恋人がいないのか。恋愛をしたい。セックスをしたい。恋人が欲しい。何気ない会話を女性としてみたい。それができない自分は、どこかに欠陥があるんじゃないか……。」
 著者本人の切実な独白から始まる本書はいわゆる「非モテ」とされる現象を詳(つまび)らかにしていく。「非モテ」に苦しむ男性たちの内実や、男性の権力構造から害を被るだけでなくその傷を自ら再生産し続けてしまう男性たちが、時に女性に対して加害と地続きになり得る執着を抱いてしまうのはどうしてなのか。そして果てのない自己否定に身を投じてしまう様子や、そういった苦悩や執着から抜け出そうとする男性たちの実践や連帯が描かれる。
 「本当に、『非モテ』男性はモテないから苦しいのだろうか?」というのが本書のテーマである。「非モテ」へのレッテルを強めたりするような本ではない。むしろ男性中心社会に穴を穿(うが)とうとしてくれている。「モテ」やそれにまつわるコンプレックスを抱えている人は、本書と共に「非モテ」問題と深く関わる社会の仕組みや男性の権力構造の問題を追っていくことで、周囲の環境やそれを気にしてしまう自分から距離を取ることができるかもしれない。
 評者にとっては、とりわけ“からかい”について扱う第三章が白眉であった。本書によると、男性集団の権力意識に基づくからかいは、からかいであるが故に被害だと自覚するのが難しい。からかわれる側は、むしろそれが自分の立ち位置なのだと自ら率先してからかいに加担していく。
 自分の学生時代がまさにそうだったな、と懐かしい思いに駆られた。懐かしいんだな、と自分でも不思議だった。単に思い出すのではなく、この章でからかいの構造を把握した上で思い出したことにより、相対化されていたのだろう。本書の精緻な分析は、混乱していた情緒に言葉を与えてくれる。言葉を持つということは、物事を変えていくための視座を得るということでもあるのだ。
(集英社新書・924円)
1989年生まれ。公認心理師。臨床社会学。モテないことに悩む男性の当事者グループを主宰。

◆もう1冊 

太田省一著『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(ちくま新書)

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