<各駅停車>懸命に恐れよう

2020年3月29日 02時00分
 さいたま支局からほど近い玉蔵院のしだれ桜が少し前に満開となった。平安初期に空海により創建されたと伝えられる真言宗の古刹(こさつ)である。正門をくぐるや、樹齢百年以上とされる老木が淡紅の花びらを散らして出迎えてくれた。
 マスク姿の見物客が遠慮がちに写真に収めて回っていた。東京五輪・パラリンピックを延期にまで追い込んだ新型コロナウイルス騒ぎに気疲れし、つかの間の安らぎを求めて訪れたのかもしれない。
 けだし人心を癒やすことができるのも、人命を脅かすことがあるのも自然の力である。四季折々の「恵み」と災難への「恐れ」。古来、日本人は双方の摂理とうまくつき合ってきたはずだった。
 しかし、新型コロナにまつわる振る舞いを眺める限り、あまりにも恐れを欠いている。重症化が心配される中高年世代や病気や障害のある人たちへの感染を防ぎ、守らなくてはと懸命に恐れているようには到底思われない。
 ビル・ゲイツ氏の警告を待つまでもなく、経済はやがて回復するが、人間は生き返らない。「自分は安泰だろう」の利己主義が蔓延(まんえん)するなら都市封鎖も仕方がない。
 世界は便利さと豊かさばかりを追求するあまり自然への恐れを失い、公害や放射能汚染、地球温暖化といったしっぺ返しを食らってきた。今度は新型コロナのパンデミック(世界的大流行)。
 高野山の大自然の中で密教の大悲を説き、利他を実践した弘法大師空海。千二百年の時を超えて嘆き節が聞こえてきそうである。 (大西隆)

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