川端康成の別荘が解体へ 「みづうみ」「秋風高原」を執筆、軽井沢町が移築保存を断念

2021年9月13日 14時00分
軽井沢町の別荘前にたたずむ川端康成=1959年8月撮影(軽井沢高原文庫提供)

軽井沢町の別荘前にたたずむ川端康成=1959年8月撮影(軽井沢高原文庫提供)

 ノーベル文学賞作家の川端康成(1899〜1972年)が創作活動に取り組んだ長野県軽井沢町の別荘が9月中にも解体されることになった。文化遺産としての価値を見いだす町民有志が保存活動を展開し、町は移築による保存を所有会社に求めたが、了解を得られず断念した。(城石愛麻)
 国内作家らの別荘の保存活動に取り組む軽井沢高原文庫などによると、川端の別荘は木造2階、地下1階で延べ床面積140平方メートル。築100年程度とみられる。40年、当時所有していた英国の宣教師が帰国する際に川端が買い取った。川端は神奈川県鎌倉市の自宅と行き来しながら、別荘で小説「みづうみ」や随筆「秋風高原」を執筆した。上皇ご夫妻が訪ねられたこともあるという。
 川端が死去した後は遺族が所有。今春、遺族が死去し、神奈川県の不動産会社が「遺族の意向」として買い取り、解体を決めた。これに対し、6つの町民グループなどが8月、「町の文化遺産として大きな価値がある」と訴え、保存を求める請願書を町議会に提出した。
 町や不動産会社によると今月2日、藤巻進町長が不動産会社に「町費で移築保存したい」と伝えたが、会社側は「移築保存までは時間がかかり、その間に土地の値下がりなどのリスクも生じる」との理由から応じられないとした。これを受けて藤巻町長は6日の町議会常任委員会で「移築保存を断念する」と表明した。
 別荘は一般公開されていないが、軽井沢高原文庫の大藤敏行副館長は「川端の研ぎ澄まされた感性が感じ取れる場所。川端ファンにとっての聖地でもあり、魅力を知らない人にとっては作品への入り口にもなる」と保存の意義を訴える。
 解体作業は9月中に完了する予定。保存を求める町民グループの一つ、軽井沢文化遺産保存会の増淵宗一会長は「別荘が壊されてしまえば、軽井沢の歴史の一部が失われてしまうのと同じだ」と話した。

 かわばた・やすなり 1899年、大阪市生まれ。東京帝国大(現・東京大)在学中から作家の菊池寛に認められ、同人誌「文芸時代」を創刊。作品は繊細な言葉で日本の美を表現し、「新感覚派」と呼ばれた。代表作に「伊豆の踊子」「雪国」。1968年、日本人初のノーベル文学賞を受賞したが、72年に自殺した。

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