飯塚被告の実刑では「救われない」けど…遺族の松永拓也さんが願う「未来」<池袋暴走事故>

2021年9月14日 04時30分
 2019年4月に東京・池袋で起きた乗用車暴走事故で、東京地裁が2日出した判決は、遺族の松永拓也さん(35)らが望んだ実刑だった。だが、松永さんは気持ちの晴れない日々を過ごしている。このまま控訴されず、飯塚幸三被告(90)の刑が確定することを願うものの、「刑務所に入ったところで本当は、私たち遺族が救われることはないんです」。救われる瞬間が唯一あるなら、裁判の結果ではなく「次の事故を防げたと思えたとき」だと思っている。(福岡範行)

◆「穏やかな自分に戻りたい」

記者会見終了後、亡くなった妻真菜さん、長女莉子ちゃんの遺影を前に上を見上げる遺族の松永拓也さん=2日、東京・霞が関の司法記者クラブで

 判決の日、自宅に戻った松永さんは、事故で亡くなった妻真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=同(3)=の仏壇に「一審終わったよ」とだけ報告した。実刑との結果は、2人が喜ぶとは思わず、伝えなかった。「加害者と争っている姿は、2人が愛してくれた僕ではない。穏やかな自分に早く戻りたい」
 裁判で扱う過去の出来事は変えることができない。どんな結果でも2人の命は戻らず、むなしくなる。でも「今と未来は変えられる」。だから、判決を事故防止につなげたいと願う。

◆「先手先手で防ぎたい」

 判決では事故原因は「約10秒間にもわたってブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを踏み続けた」と判断された。誤操作の修正は、年を取るにつれ難しくなる。松永さんは「そこがこの事故の肝。チェックする制度か何か考えられるのが大事なんじゃないか」と語る。
 高齢者ドライバーの事故を未然に防ぐ対策として、ドライブレコーダーなどで日常的に運転を診断する仕組みや、運転免許を返納した後の生活を支える取り組みの充実も訴える。
 事故の後、高齢者の免許自主返納は増え、免許更新制度の見直しも進んだ。松永さんは「事故前に対策を打てていたら」と思うからこそ、力を込める。「これから起こるかもしれない事故を先手先手で防ぎたい。1人の力じゃ何もできないので、多くの方と取り組みたい」

◆専門家「よく知る道に限り、危険予測し運転を」

 踏み間違いなどの誤操作の修正について、大阪大の篠原一光教授(交通心理学)は「高齢者は頭で分かっても体が動かないことが起きる。踏み間違いに気づいても、踏み込む動作をやめられない」と説明する。緊急時などに動作を止める脳の働きは、加齢によって低下しやすいという。
 ただ、こうした機能低下は、病気と判断されるほど深刻なレベルであれば検査で見つけられるが、車を運転できる健康な高齢者の低下傾向を確かめる方法は研究段階だ。
 篠原氏は、高齢になると危険に気づくのが遅れやすくなり、操作を誤るリスクが高まるとも指摘。運転が必要だとしても、「車を使うのはよく知っている道に限り、スピードを落とし、危険を予測しながら慎重に走る」よう勧める。例えば、行きつけのスーパーや病院への道に絞ることだ。「定年や年金支給開始など生活の変化が起きたときに、車の乗り方も考えては」と促した。
▶次ページ:松永拓也さんインタビューの一問一答
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