コロナ禍で母国イタリアには戻れないけれど…糖尿病、がん予防研究に没頭 32歳留学生「日伊の架け橋に」

2021年9月14日 12時00分

試薬の調整をするミッティさん(右)と早下隆士教授=いずれも東京都千代田区の上智大で(撮影時のみマスクを外しています)

 コロナ禍で母国に帰れないまま日本で医用生物工学の研究を志すイタリア人留学生がいる。上智大大学院理工学研究科博士後期課程のミッティ・カスッリさん(32)だ。厳しい学業環境を支援しようと、卒業生の団体が設けた奨学金の受給生第1号に選ばれた。「糖尿病やがんの予防につながる物質の迅速な分析方法を究明し、日伊の懸け橋になりたい」とフラスコに目を凝らす日々だ。(蒲敏哉)
 上智大は外国語教育で名高いが、理工学部も化学科卒の谷本秀夫・京セラ社長など各界に人材を輩出する。江戸時代に紀州徳川、尾張徳川、井伊家の中屋敷があった東京都千代田区紀尾井町に立つ校舎4階の研究室は、実験機器が並ぶ独特の雰囲気だ。
 ミッティさんはイタリア南部バーリ生まれ。トリノ工科大で学び、フィリピンでの巨大台風による被災地救援活動を経て、2019年4月から上智大に留学している。
 研究室仲間にケーキを焼くなど大学になじむが、コロナの影響を大きく受けている。
 「イタリアは欧州の中でも感染状況が深刻です。一度帰国すると日本のビザが切れてしまい、簡単に戻って来られない。悩ましい日々が続いています」
 母親リーディアさん(70)の心臓手術にも立ち会えなかった。父親フェデーレさん(72)から「かなりリスクが高い」と連絡を受け、心配していた。
 「イタリア人は家族をとても大切にしますが、中でも母親は特別。つらかった」と明かす。手術は成功し、ネットで様子を知ることができた。
 研究しているのは、体内の血糖値を電気化学的に検出する方法。糖尿病やがんの予防につながる代謝成分の早期分析に役立つことを目指すという。

◆卒業生でつくる奨学金の受給生第1号に

 研究室随一の研究成果が見込まれ、指導教官の早下隆士教授(63)=前学長=の推薦もあり、理工学部出身の経営者でつくる、博士号を目指す大学院生向け奨学金の受給生第1号に選ばれた。毎月15万円、3年間で540万円が返還の必要なく支給される。

奨学金制度や研究について話すミッティさん(左)と中山紘一さん

 理工学部、大学院を通じた1期生で経営者の会の会長を務める、国際品質の試験評価会社ケミトックス代表取締役CEO中山紘一さん(79)は「純粋に優秀な博士候補を選んだら彼女だった。精進してノーベル賞を取る成果を上げてほしい」と応援する。
 早下教授も「日本が国際競争力を高めるためには、博士号取得者の増加が喫緊の課題だ。ミッティさんは上智の国際性と理工系の先進性を併せ持ち、状況を突破する力がある」と期待する。
 日本では外国人として不安なこともあるが、道を尋ねると行き先まで丁寧に教えてくれるなど親切にされることが多いという。
 上智大には約1万3000人の学生がおり、外国籍の学生は約1500人。コロナ禍で来日できず、自国でオンライン授業を受ける学生も多い。
 ミッティさんは思いを明かす。「外国から来た私にここまで優しくしてくれる日本を簡単に離れるわけにはいかない。研究者として大学に残り、恩返ししたい」

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