<民なくして>菅首相、国民に届かぬ退陣理由 「現場を見ず、身内で政治」

2021年9月15日 06時00分
 菅義偉首相は、自民党総裁選に立候補しない理由を「新型コロナウイルス対策に専念するため」と語る。だが、9日の「退陣会見」は1時間で打ち切られ、国民が納得できる詳しい説明はなかった。首相ら政治家の言葉が国民に届かない底流には、説明責任を果たそうとしない政治姿勢への不信があるのではないか。(清水俊介、木谷孝洋)

9日、東京・新橋の繁華街で菅首相の自民党総裁選不出馬の理由や、緊急事態宣言の延長について伝える街頭テレビ

◆発言二転三転で政権投げ出し

 「コロナ対策と総裁選を両立できずに退陣なんて言っていることがおかしい。政権の放り投げだ」
 東京都あきる野市の介護士吉沢邦子さん(64)は、首相の言葉に憤る。8月25日の会見では、緊急事態宣言の対象地域追加を決めながらも、感染対策で「明かりは見え始めている」と発言していたのに、9日は総裁選に出ない理由でコロナ対応を挙げたからだ。
 医療法人運営の老人ホームで働く吉沢さん。安倍政権が2015年、集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法を成立させた時は「政府は説明責任を果たしていない」と感じ、何度も国会前デモに出かけた。コロナ禍の今、週1回は仕事のためにPCR検査を受けるなど日々、緊張を強いられているからこそ、首相の投げ出しのような言動に納得できない。

◆同じような言葉を繰り返すだけ

 首相は今月3日、党会合で辞意表明後、総裁選とコロナ対応について「莫大なエネルギーが必要で両立できない」と記者団に述べ、わずか2分で立ち去った。
 会見は6日後の9日、緊急事態宣言の延長決定に合わせて実施。総裁選出馬を「当然」としていたのに「コロナ対策を行う中で、総裁選に出馬するのはとてつもないエネルギーが必要だ」と、3日と同様な言葉を繰り返しただけだった。
 一方で、デジタル庁新設や携帯電話料金値下げなど自らの政権での成果を強調。コロナ対応では医療体制不備への「反省」は示しつつも、東京五輪開催と感染急増の関係や、感染者の入院基準緩和といった疑問に答える姿勢は乏しかった。

◆最後まで乏しかった発信力

 吉沢さんは「もっと医療現場を見てほしかった。自分の周りだけで政治をやっているから、楽観的なことしか言えないのではないか」と語る。
 そんな国民の疑問を政府に問う場が国会。だが、6月に通常国会が閉会後、野党の憲法53条に基づく臨時国会召集要求に応じないまま、自民党は身内の総裁選に時間を費やす。
 逢坂巌・駒沢大准教授(政治コミュニケーション)は「首相の権力の基盤は国民の支持で、国民とコミュニケーションを取りながら政権運営する必要がある」と説明。菅首相に対しては「合理的で具体的な説明や本心をさらけ出し、国民に寄り添うような発信が求められていたが、最後までできなかった」と指摘した。
 「民なくして」は、論語に「民信(たみしん)なくば立たず」が出典。民衆の信頼がなければ、孔子は政治は成り立たないと説く。衆院選を見据え、「説明しない政治」に声を上げ続ける人たちの動きを追い、政治の在り方を考えます。(随時掲載します)

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