「無益な争い、やめに」遺族の松永拓也さんが語っていた願い 飯塚被告控訴しない方針 池袋暴走事故

2021年9月15日 14時18分
 2019年4月に東京・池袋で母子2人が死亡した乗用車暴走事故の刑事裁判は、東京地裁から実刑判決が出された飯塚幸三被告(90)が控訴せず、終結する見込みになった。「無益な争い、もうやめませんか」と呼び掛けていた遺族、松永拓也さん(35)の願いがかなう。刑が確定後は、松永さんは、犠牲になった妻真菜まなさん=当時(31)=と長女莉子りこちゃん=同(3)=に誓った交通事故の防止活動に全力を注ぐ。(デジタル編集部・福岡範行)

◆判決前、飯塚被告へ「争いの感情ばら撒くのはやめませんか」

記者会見終了後、亡くなった妻真菜さん、長女莉子ちゃんの遺影を前に上を見つめる遺族の松永拓也さん=2日、東京・霞が関の司法記者クラブで

 判決が出た2日、帰宅した松永さんは2人の仏壇で「実刑だった」とは報告しなかった。2人が喜ぶとは思わなかったからだ。7日の本紙の取材には、このまま刑が確定しても「終わったよ」とだけ伝え、防止活動を続けることを報告するつもりだと語った。「『2人の命を無駄にしない』っていうことは、僕は裁判っていうよりは、次こういう事故を防いだときだって思っているので」。
 裁判で飯塚被告が有罪とされても2人が亡くなった過去は変わらないが、「未来は変えられるから」と社会に向けて事故防止を呼び掛け続けている松永さん。8月5日には「飯塚幸三被告人へ」と題したブログで、「社会に対して争いの感情をばら撒くのはもうやめませんか。『どうすればこういった事故を無くせるのか』という視点を共に持ちませんか」とつづり、どんな判決であっても控訴しないことを願う思いを伝えていた。
 「交通事故は、誰もが加害者になりえるから、自分の主張を許されない社会は怖い」と考え、飯塚被告が無罪を主張する権利を尊重すると明記した上での呼び掛けだった。

◆拭えぬ憤り、謝罪あっても「いまさら」

 控訴断念なら、飯塚被告が松永さんの思いに応えた形になる。ただ、松永さんは7日までの取材で、飯塚被告への憤りを拭い切れない思いも明かしていた。
 判決直後の会見では、記者の質問に答える形で、「被告人が客観的な事実を認めた上での謝罪のラストチャンス」と言及し、刑の確定後に飯塚被告から謝罪の申し出があれば「受け入れざるをえない」と語った。後日、謝罪を歓迎する言い回しではなかった理由を尋ねた。松永さんは、裁判で示された証拠を前にしても頑なに過失を認めてこなかった飯塚被告の姿勢に「2年4カ月苦しめられてきた」と語り、「いまさら謝られても、別に何の救いにもならないです」と吐露した。

松永拓也さん(左)と紅葉狩りを楽しむ長女莉子ちゃん(中)と妻真菜さん(右)=松永拓也さん提供

 松永さんが飯塚被告に一貫して望んできたのは、亡くなった2人の命と向き合うことだった。しかし、無罪主張を貫く姿や、被告人質問での受け答えから、「命と向き合っているとは、どうしても思えなくて」。刑の確定後に、飯塚被告が2人の命や遺族の苦悩と向き合い直し、謝罪をしたいと申し出があれば、受けるつもりだ。ただ、それは「それが彼の救いになるんでしょう」との考えからだ。

◆失敗談を教訓に「今からでも遅くない」

 7日の取材の終盤に、飯塚被告が過失を認め、事故を巡る反省点を社会に発信することの是非について話が及んだ。松永さんは「今からでも本当は遅くないと思います。失敗談は、聞いた人にとっての学びになる。こういうことすると失敗するんだな、気をつけて事故を起こさないようにしようって考えるじゃないですか」と語った。
 松永さんは、交通事故の加害者の立場で失敗談を語ることは難しいだろうとも口にしつつ、わずかに残る期待を語った。「僕は本当に価値があること、意味のあることって、そこだと思うんですよ。僕は少なくとも彼がそういうこと言ったら、全然『ふざけんな』とは思わない。自分の利害を考えずに、未来に向けた発言をしてくれたら」。

関連キーワード

PR情報

主要ニュースの新着

記事一覧