松永拓也さんを苦しめた飯塚幸三被告への「上級国民」バッシング…裁判終えた今、伝えたいこと 池袋暴走事故

2021年9月17日 21時21分
 東京・池袋で2019年4月、松永真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=同(3)=が死亡した乗用車暴走事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた飯塚幸三元院長(90)の実刑確定を受け、遺族の松永拓也さん(35)らが17日、東京都内で会見した。松永さんは「長かった裁判がようやく終わって安堵あんどの気持ち」と話した。一方で、「飯塚氏から『自分の過失だと思う』という言葉が聞けていません。非常に残念です」と複雑な心境を語った。飯塚氏を「上級国民」と呼んで過熱した加害者バッシングに悩んでいたことも明かした。(デジタル編集部・福岡範行)

◆「自分の過失と思えたら、贖罪の始まり」

 飯塚氏から連絡はなく、控訴断念の理由は分からない。松永さんは「刑務所で『自分自身の過失であったな』と素直に思える日が来るのであれば、飯塚氏にとって本当の意味で贖罪しょくざいの始まりではないかなと思います」と語った。

東京・池袋の乗用車暴走事故で被告への実刑判決が確定し、記者会見する松永拓也さん(右)と真菜さんの父の上原義教さん

 昨年10月に始まった刑事裁判で、飯塚氏はドライブレコーダーなどの証拠と矛盾があっても、車のシステムが原因だとして一貫して無罪を主張。松永さんは公判中、「荒唐無稽な主張をされ続け、絶望した」などと憤っていた。この日の会見でも「客観的な証拠があっても『車のせい』だと言われ続けてしまったので、なかなか(罪と)向き合っていると思えない」と今も拭えない不信感を語った。

◆「必要以上に誹謗中傷」疑問視

 ただ、故意に起こした事故ではないことも指摘し、「加害者を必要以上に誹謗ひぼう中傷し続けることや、上級国民だとか、逮捕されなかったことは本質的に大事なことではないと思っています」と発言した。

長女莉子ちゃんと一緒に温泉につかる松永拓也さん(松永拓也さん提供)

 松永さんが大事にしているのは「2人の命を無駄にせず、未来の交通事故を防ぐこと」だ。公判中の会見で、飯塚氏を厳しい言葉で批判した際も、加害者バッシングの過熱を予想し、心の片隅で「これで世の中の人が本質から遠ざかってしまうのかな」と考えていたという。
 事故後の加害者の言動によって遺族が傷つくことも「交通事故の現実」だと感じ、多くの人に知ってほしいと願ってきた。飯塚氏に対して憤る感情に「うそはつきたくない」とも思っていた。しかし、自分の発言で、飯塚氏へのバッシングが強まってしまえば、交通事故防止のメッセージが伝わりにくくなるのではないかと考え、ジレンマに苦しんだ。判決では、「苛烈な社会的制裁」が飯塚氏への量刑を減らす理由の1つになった。

◆「脅迫、望んでいませんでした」

 この日の会見では「社会での健全な議論を超えて、脅迫といった行為になってしまったことは、私は決して望んではいませんでした」と明言した。自身もインターネット上で誹謗中傷を受け続けていたことを明かし、「被害者であっても加害者であっても誹謗中傷されない世の中になればいいなと思います」と願った。
 松永さんは、加害者を過度に非難する人たちには「自分は事故を起こさない」という気持ちがあるのではないかと予想する。しかし、事故は車を運転する誰もが起こしうる。松永さんは「みなさまに加害者にも被害者にも遺族にもなってほしくない。一緒に、交通事故を1つでもなくしていきたい」と呼び掛けた。
 記者からあらためて、ドライバーへのメッセージを問われると、真菜さん、莉子ちゃんと車で出掛けてたくさんの思い出をつくったことに触れた上で「車は本当に素晴らしいものだと思います。ただ、同時に人を傷つけるもの、人の命を奪ってしまうものになりえる。ぜひ、そのことを念頭に置いてハンドルを握っていただきたい。多くの人に広がっていけば、事故は減らしていけると思う。防げない部分を技術とか法制度とか、取り締まりとかいろんなやり方で防いでいく。1人1人の意識が大前提なのかなと思うので、ぜひそこをお伝えしたい」と語った。

◆真菜さん、莉子ちゃんへ

夏祭りを楽しむ松永真菜さん(左)と莉子ちゃん(右)=松永拓也さん提供

 1時間余りの会見で唯一、松永さんが涙ぐんだ場面があった。真菜さん、莉子ちゃんへの思いを語ったときだ。「2人に出会えて、本当に幸せでした。たくさんの愛を教えてもらって、たくさんの愛をくれました。心から、愛していると伝えたいです。『交通事故を1つでも減らすことができたよ』って、自分が命尽きたときに言えるように生きていきたいです。裁判が終わった今、やっと争いではなく、2人の愛してくれた私らしく生きていけるな、と。これからは、2人の愛してくれた僕に戻って生きていきたいなと思っています」
 真菜さんの父の上原義教さん(64)は「裁判が終わって少し前を向ける」と語りつつ、「真菜と莉子に会いたくて会いたくて仕方ありません」と涙も浮かべた。

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