北朝鮮が弾道ミサイル発射、EEZ内側に落下か 「自分たちを忘れるな」というメッセージ?

2021年9月15日 22時56分
金正恩総書記=AP

金正恩総書記=AP

 【ソウル=相坂穣】北朝鮮は15日午後零時34分と同39分、中部の平安南道ピョンアンナムド陽徳ヤンドク郡付近から日本海に向け短距離弾道ミサイル2発を発射した。国連安全保障理事会の決議に違反する弾道ミサイル発射は今年3月以来、半年ぶり。韓国軍が15日に実施した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射実験や、14日の日米韓高官協議への対抗措置とみられる。
 北朝鮮の金正恩キムジョンウン総書記の妹の金与正キムヨジョン・朝鮮労働党副部長が15日に談話を出し、ミサイル発射を「自衛的な活動」と正当化。韓国の文在寅ムンジェイン大統領に対し「われわれを中傷し文句を言うなら、対抗行動を取り、北南関係は破壊に突き進む」と警告した。
 岸信夫防衛相は同日、ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)の内側に落下、変則軌道で約750キロ飛行し、最大高度は約50キロだったとみられるとの分析結果を明らかにした。EEZ内の落下は2019年10月以来2年ぶり。落下したと推定されるのは石川県・能登半島沖の舳倉島へぐらじまから北約300キロの海域で、航空機や船舶への被害はなかった。日本政府は当初、EEZ外に落下したとみられると発表していた。
 これに先立ち菅義偉首相は官邸で記者団に「わが国と地域の平和と安全を脅かすもので言語道断だ」と述べた。
 北朝鮮のミサイル発射に先立ち、韓国軍が15日にSLBMの発射実験を計画。韓国政府は同日午後、米中ロ英仏印に続き世界で7番目となる潜水艦からの発射に成功し、文在寅大統領が視察したと発表した。
 北朝鮮の金正恩政権もSLBM開発を推進し、昨年10月と今年1月の軍事パレードで公開。韓国情報当局などは、北朝鮮がSLBM搭載可能な潜水艦の建造を進め、実戦配備を急ぐ可能性もあると警戒している。
 北朝鮮は11日と12日も、長距離巡航ミサイルを発射し、2時間6分20秒飛行して1500キロ先の標的に命中した、と13日に発表。日米韓政府は14日、北朝鮮担当高官の協議を東京で開催し、北朝鮮の非核化に向け経済制裁の履行の重要性を確認した。米国のソン・キム北朝鮮特別代表は15日午前、一部メディアと会見し、正恩氏に「対話」を呼び掛け、軍事挑発の自制を求めていた。

◆相次ぐ武力挑発 米韓軍事演習や日米韓高官協議に対抗か

 【ソウル=中村彰宏】長距離巡航ミサイルの発射成功の発表からわずか2日後。短距離弾道ミサイル2発を発射した北朝鮮の相次ぐ武力挑発は、米韓合同軍事演習に対抗すると同時に、経済難の中でも強化が進む戦力を誇示し米国などを揺さぶる狙いがありそうだ。
 北朝鮮は1月の党大会で、兵器システム開発5カ年計画を提示。長距離巡航ミサイルの発射は計画の一環としており、今回の弾道ミサイルも同様とみられる。経済の5カ年計画も示しているが、経済制裁と新型コロナウイルス、自然災害の「三重苦」に見舞われている。韓国・北韓大学院大の金東葉キムドンヨプ教授は「経済で不足した成果を軍事分野で補おうとしている可能性がある」と指摘する。
 注目されるのは、挑発のタイミングだ。北朝鮮は8月の米韓軍事演習後、対抗措置を予告。14日の日米韓高官協議に続き、15日には中韓の外相が会談した。最も効果的な時期を狙った可能性がある。
 米朝交渉は停滞。対話再開の打診に北朝鮮が応じていないとしているバイデン米政権も、アフガニスタンへの対応で余裕がないのが実情だ。韓国軍関係者は、ミサイル発射を「自分たちを忘れるなというメッセージ」と分析する。
 巡航ミサイルは日本が射程に入る1500キロで、15日の発射は短距離弾道ミサイル。米国本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)のような過度な挑発は避け、対話の余地を残す思惑もにじむ。
 韓国へのけん制もある。韓国政府は15日、SLBMの水中発射に成功したと発表。試験に立ち会った文在寅大統領は現場で北朝鮮のミサイル発射の報告を受け、「韓国のミサイル戦力の増強こそ、北朝鮮の挑発に対する確実な抑止力になり得る」と述べた。
 韓国は今月、北朝鮮の核の脅威に対応するミサイル戦力の高度化を盛り込んだ国防中期計画を発表。北朝鮮の対外宣伝メディア「メアリ」は、「同族を狙った刀を熱心に研いでいる」と非難していた。韓国メディアでは「今回の発射で南北間の緊張がさらに高まる」との見方が出ている。

◆「弾道ミサイル」と「巡航ミサイル」の違いは?

 【ソウル=相坂穣】北朝鮮の金正恩政権が「国家防衛力と先制打撃能力の強化」を掲げ開発するミサイルは、弾道ミサイルと巡航ミサイルに大別される。
 弾道ミサイルは、核爆弾など大量破壊兵器の運搬を意図。ロケットエンジンを推進力に放物線を描いて飛び、高速で落下するため迎撃が困難。2017年に射程1万3000キロ超で米国本土の攻撃が可能とみられる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に成功。その後、変則軌道で飛び、追跡が難しいロシア製の短距離ミサイル「イスカンデル」に似たタイプも登場した。
 巡航ミサイルはジェットエンジンが動力で水平飛行する。国連安保理決議の対象外だが、地上近くを飛ぶためレーダー探知が難しい。北朝鮮は今月11、12日の発射実験で「8の字や楕円を描いて飛行し1500キロ先の標的に命中した」と主張。事実であれば、日本列島の大半が射程に入る。

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