<歌舞伎評 矢内賢二>仁左衛門の伊右衛門 色気と凄み 歌舞伎座「九月大歌舞伎」

2021年9月17日 07時10分

「東海道四谷怪談」の仁左衛門(左)、玉三郎 ©松竹

 歌舞伎座の第三部「東海道四谷怪談」は片岡仁左衛門の伊右衛門、坂東玉三郎のお岩が一九八三(昭和五十八)年以来の顔合わせ。「浪宅(ろうたく)」から「隠亡堀(おんぼうぼり)」までの上演ではあるが、先の「桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)」に続いて話題の舞台。
 仁左衛門の伊右衛門は、したたるような色気の奥底にほのかな愛嬌(あいきょう)と苦い悪の凄(すご)みがあって絶品。「水揚げにかかろうか」の色っぽさ、時折見せるギロリとした眼(め)つきの鋭さ。隠亡堀では黒の着付けに真っ白の顔が映えて、玉三郎の小平(こへい)女房お花ともども錦絵の美しさ。浪宅の幕切れと戸板返しの場面では、亡霊に怖(お)じることなくせせら笑うふてぶてしさが独特。玉三郎のお岩は渋く抑えた演技で、ほっそりした肩の線に哀れさがあふれる。尾上松緑(しょうろく)の直助権兵衛も線の太い悪党でキビキビとしていい。
 第二部は新型コロナウイルス感染者の発生のため配役が一部変更になり、五日遅れで初日を開けた。松本幸四郎が先月の「義賢最期(よしかたさいご)」に続いて義太夫狂言に取り組み、「近江源氏先陣館(おうみげんじせんじんやかた) 盛綱陣屋(もりつなじんや)」の盛綱を初役で演じる。姿とせりふに爽やかさと柔らかみがあり、敵方についた弟高綱の出方を終始危ぶむ「優しい兄」の感触が個性的。高綱が計略に落ちたと聞いて嘆き悔やむところが切実に迫る。中村歌六の微妙(みみょう)、中村雀右衛門の篝火(かがりび)が好演。小四郎の尾上丑之助(うしのすけ)、小三郎の坂東亀三郎がしっかりしている。第二部は他に中村時蔵の「女伊達(おんなだて)」。
 第一部は六世中村歌右衛門二十年祭、七世中村芝翫(しかん)十年祭でゆかりの出演者が顔を揃(そろ)え、「お江戸みやげ」には中村福助が元気な姿を見せる。二十七日(二十一日は休演)まで。 (歌舞伎研究家)

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