<民なくして>「1年半の無策のツケを僕たちに押しつけるな」 新橋の居酒屋店主の嘆き

2021年9月18日 06時00分
コロナ禍の営業について話す「正味亭尾和」店主の尾和正登さん

コロナ禍の営業について話す「正味亭尾和」店主の尾和正登さん

 長期化した新型コロナウイルス感染拡大の影響で、仕事や暮らしへの負担が積み重なる中、人々の苦悩は限界に達している。政治は山積する課題にどう向き合うべきなのか。17日に告示された自民党総裁選と、近づく衆院選を前に、民の切実な声を紹介する。

◆コロナ禍で身を削る思い

 東京都港区新橋の居酒屋で昨年5月、店主の尾和おわ正登さん(53)は、男性社員に向かって切り出した。「申し訳ないけど、雇用を維持する体力はないし、店の今後にも不安がある。次の仕事を探してくれ」
 「(雇用は)無理ですよね」。この社員はコロナ禍での店の経営に理解を示し、すんなり退職を受け入れた。2つの店舗を抱え、2000万円の融資を受けたが先の見通しは立たない。正社員5人のうち、3人に辞めてもらうしかなかった。
 「彼らが身を引いてくれたおかげで態勢を縮小し、経営をつなげられた。コロナ禍の1年半、身を削る思いだった」と尾和さんは振り返る。

◆2000万円の借金背負い…

 これまで、営業時間の短縮や酒類提供の自粛に応じてきた。協力金や雇用調整助成金を支給されても、家賃の支払いなどで赤字が続いた。直前に決まる緊急事態宣言や、協力金の支給遅れにも悩まされた。
 「売り上げはコロナ禍前の4分の1程度。どんどん赤字が積み上がる。2000万円の借金を背負い、プラスになる見込みが全然ない。閉店しかないと考えた時期もある」。廃棄するしかなくなった酒は店のカウンターでひとり、飲んだ。本当は、来店客に楽しく飲み食いしてほしいのに。
 今年4月、協力金が事業規模に応じた金額に変更され、赤字解消のめどは立った。しかし支給が遅れ、都のコールセンターに電話した。「都知事は会見で『すぐ支給』と言ったはず」と問いただすと、「知事は現場の状況をご存じないようです」と言われた。
 国と都が先月、共同で都内の全医療機関に病床確保を要請した際には「飲食店が身を削ってきたのに、この1年半の間に何をしていたのか」とあきれた。
 「新型コロナ対策には、水際対策や、感染者の追跡調査、病床確保、検査、ワクチン接種もある。どれも満足にできず、そのぶん飲食店への要請が厳しくなった。無策のつけを僕たちに全部押しつけるな、と言いたい。他の業界と違い、政治力のある業界団体がないことも影響したのだろう」

◆派閥や票の調整ばかりの総裁選に怒り

 緊急事態宣言の延長が繰り返され、新橋では6月ごろから自粛をやめて酒を提供する店が増えた。「飲食店は科学的な根拠なく悪者にされ、無意味なことに努力させられている」と思っている。一時は自粛をやめ、ランチのみの営業から抜け出そうと本気で考えたが、家族に止められた。
 だから政治には「これまでの飲食店の自粛の効果を検証しなければいけないはず。いろいろな対策をやってみて検証していかないと、前に一歩も進まない」と要望する。そんな中で始まった自民党総裁選。「派閥や票の調整ばかりで、具体的なコロナ対策は見えない。向いている方向が違う」と怒りを隠さない。(宮本隆康)

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