震えたのは 岩崎航(わたる)著

2021年9月19日 07時00分

◆未知の生に導く真実の言葉
[評]若松英輔(批評家・随筆家)

 優れた詩人の言葉は、読む者の心にいる眠れる詩人を目覚めさせる。岩崎航は、そうした詩人の一人だ。私はあるとき、彼の詩を読んで詩を書こうと思い立った。
 この詩集が岩崎航の第二詩集になる。最初の詩集『点滴ポール 生き抜くという旗印』は、大きな驚きと文字通りの感動をもって世に送りだされた。
 岩崎航の言葉は、単に考えられたものではない。自分で生きてみた言葉だけを書く。それが彼の不文律だといってよい。また、彼にとって詩を書くとは、困難にあってもけっして力を失うことのない、未知なる自分に出会う道程にほかならなかった。
《意外に力も
 でるではないか
 自分の
 柵を
 壊してみたら》
 彼の詩の多くは五行でつむがれている。五行歌、あるいは五行詩と呼ばれる様式だが、これは岩崎によって、ある完成を見たといってよい。それだけでなく彼の試みは同時に、多くの人にも詩を書く道を開いた。岩崎は、自らが希求する言葉を紡ぐことから詩作を始めたのかもしれない。どこを探しても自分の心に火を灯(とも)す言葉が見つからない、そうした現実が彼を詩人にしたのではあるまいか。そして彼は、詩を書くことによって、ほかの誰でもない、真の意味での自分の人生を生き始めた。
《胸もとに
 真実の鷹を放たれて
 涙こぼれた
 そうして
 人生が始まった》
 ここで「鷹(たか)」と表現されているのは、人間をその人だけの人生へ導く言葉にほかならない。長く続く危機の中で、こうした一つの言葉との出会いを渇望している人は少なくないだろう。
 人は、素朴な、しかし確かな言葉に出会うことができれば、耐えがたい日々も歩き続けていける。私は、この時代の闇を深い場所から照らしだす、こうした詩集が、今、この時期に登場したのは、偶然だとは思えないのである。
(ナナロク社・1870円)
1976年生まれ。3歳で進行性筋ジストロフィーを発症。25歳から詩作を始める。

◆もう1冊

ヴィクトール・E・フランクル著『夜と霧 新版』(みすず書房)。池田香代子訳。

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