<民なくして>国によるPCR検査、入院制限の方針に憤り 池袋の呼吸器内科医

2021年9月20日 06時00分
発熱外来の診療前に、防護服を着る医師の大谷義夫さん=東京都豊島区の池袋大谷クリニックで(木口慎子撮影)

発熱外来の診療前に、防護服を着る医師の大谷義夫さん=東京都豊島区の池袋大谷クリニックで(木口慎子撮影)

◆自らも感染不安の中、500人以上を診断

 「毎週土曜日の夜になると、『今週はコロナにかからなくて良かった』。そんなことを考えていました」
 東京都豊島区西池袋の「池袋大谷クリニック」院長で呼吸器内科医の大谷義夫さん(57)は、新型コロナウイルス感染が広まり始めた1年半前の心境を語る。
 クリニックは、通常の診察後や昼休みの時間に発熱患者を診察している。感染者が増えた時期は夜中まで患者が訪れた。これまでに診断したコロナ患者は約550人に上る。
 当初は、新型コロナがどういうウイルスか分からなかった。備蓄していた医療用マスクも減り、感染の不安を抱えて診察していた。「呼吸器内科医でなければ、山奥に逃げたかった。でも、肺炎になる患者がたくさんいる。逃げるわけにいかない」。そう気持ちを奮い立たせた。

◆検査を受けられない、入院できない人たち

 何より苦しかったのは昨春のこと。新型コロナの疑いのある患者に、PCR検査を提供できなかった。
 後に厚生労働省が「誤解があった」として削除した「37.5度以上の熱が4日間」という基準のため、検査がしぼられていた。「早く診断し、治療につなげていれば助かった命もあったはず。国は現場を分かっているのかと思った」と振り返る。
 菅政権については「ワクチン接種は早かった」と評価できる点もあるという。しかし今年8月、再び疑問に感じる出来事があった。
 感染急拡大で入院できない患者が相次いだ第5波のさなか、政府は、入院対象を重症者らに限るとした方針を示した。その後、軌道修正したが、「医療現場を知らない人が決めたとしか思えない」と憤る。
 クリニックのコロナ患者の半数近い約270人が第5波だった。このうち3人は自宅で症状が悪化し、救急車を呼んだが、搬送先が見つからず、その日は入院できなかったという。「救急車が来たとき、患者や家族は『助かった』と思ったはず。入院できなかったときの不安と見放された感、絶望感はいかほどだっただろう」と思いやる。

◆「現場を知らない人に任せていたのでは」

 政治の仕事は幅広い。首相がすべての分野に詳しいことはあり得ない。そもそも新型コロナは未知のウイルス。「専門家を名乗れる人はいない。どの答えが正しいか世界中で模索している。今だって、なぜ感染者が減っているのか誰も分からない。誰がリーダーをやっても難しい」
 だからこそ「ブレーンが重要。特に医療は、対応を間違えれば命にかかわる」と話す。「政府の使命は、国民の命を守ること」という菅首相の発言について「おっしゃる通りだと思うが、やり方を、現場を知らない人に任せていたのではないか」。自民党総裁選で、事実上決まる新たなリーダーには「現場をよく知るブレーンをそろえ、明確なメッセージを発してほしい」と注文する。(加藤益丈)

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