<社説>パワハラ自殺 定義広げた二審判決

2021年9月21日 07時41分
 パワーハラスメントの解釈を広げる司法判断だ。トヨタ自動車の男性社員が二〇一〇年にうつ病で自殺したのは「過重労働と上司のパワハラが原因」として、妻が国に労災認定を求めた訴訟で、名古屋高裁はパワハラと発病の因果関係を認める逆転判決を言い渡した。パワハラに関する国の新基準が適用された。
 判決によると、男性は〇八年から自殺するまで二年弱の間に、相前後して三件の異なるプロジェクトを任され、一時はそのうち二件を並行して担当した。業務は遅れがちで、上司二人に週に一回以上「これではだめだ」などと、フロアの中央で、他の多くの従業員に聞こえるほどの大声で叱られた。
 一審名古屋地裁は「人格を否定する言動ではなかった」として訴えを退けたが、高裁判決は同じ事実への評価を百八十度変え、パワハラだと認定した。その基になったのは、二〇年に改正された厚生労働省の「業務による心理的負荷評価表」だ。
 改正評価表では、「パワハラ」の項が新設され、具体例として「必要以上に長時間の激しい叱責(しっせき)」や「他の労働者の面前での大声かつ威圧的な叱責」など、「社会通念で許される範囲を超える精神的攻撃」などについて、心理的負荷が「強」としている。
 高裁判決は、この評価表に沿って、男性が三つの事業を担当するプレッシャーと上司の叱責によって「精神障害を発病させるほど強い精神的負荷を受けた」と認定。国(豊田労働基準監督署)に遺族補償と葬祭料の不支給決定を取り消すよう命じた。
 トヨタでは、一七年に自殺した男性社員について、労基署が「パワハラが原因」と労災認定した事例もある。二年後に新聞で詳細が報道された直後に豊田章男社長らが遺族に謝罪し、人事評価制度の刷新につながった。本人や家族からパワハラを相談できる窓口を設けるなどの対策が取られている。
 パワハラなどで精神障害を起こしたとする労災申請は二〇年度で約二千件だが認定率は約三割にとどまる。今回の判決は、国の新基準を適用してパワハラの定義を広げた形であり、今後の労災認定への影響も予想される。
 各職場では、何がパワハラに当たるかを共有する機会を増やすとともに、最悪の事態を防ぐ仕組み作りを粘り強く考えていきたい。

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