<社説>再審無罪を否定 西山さんを苦しめるな

2021年9月22日 07時50分
 再審無罪判決を否定するという荒唐無稽な書面だ。
 滋賀県の病院で、患者の死亡を巡り殺人罪などで服役後、再審無罪が確定した元看護助手西山美香さんによる国家賠償請求訴訟で、被告の県は、西山さんを犯人視する表現をした準備書面を大津地裁に提出した。県警が作成したもので、県側は承知していなかったとして、三日月大造知事は謝罪し、書面修正の意思を表明した。なぜこんなことが起きたのか、県と県警に徹底調査を求めたい。
 訴訟は、西山さんが捜査の違法性を解明することなどを目的に、昨年提訴した。県側は、違法性はなかったと主張する今月十五日付書面の中で「患者を心肺停止状態に陥らせたのは、原告(西山さん)である」と、西山さんを殺害の実行者と決め付けた。
 西山さん側からの強い抗議で、知事は臨時の記者会見を開き「西山さんの心情を傷つけた。深くおわびする」と述べ、修正の意向も示した。事前に書面の内容や提出の事実を知らなかったという。
 書面は県警が作成。県警は「慣例に従った」と釈明しているが、県の規定では、県警本部長の決裁後、県総務課長が決裁することになっている。しかし今回、書面は県側に回付されていなかった。
 再審無罪が確定した昨年三月の大津地裁判決は「『呼吸器を外した』との捜査段階の自白には、信用性と任意性に疑いがある」と認定。さらに「取調官は西山さんの自分への恋愛感情に乗じて供述をコントロールしようとした」と、自白調書を証拠から削除し、患者は「他の原因で死亡した可能性がある」と結論づけた。
 これに対し、問題の準備書面は「取調官に好意を寄せて虚偽の自白をするなどあり得ない」と反論。無罪判決も否定した。
 だが、ちょっと待ってほしい。再審公判で、検察側は「新たな有罪立証は行わない。裁判所に適切な判断を求める」と論告し、求刑もしなかった。有罪立証を放棄したに等しいのに、捜査をした県警が今になって西山さんを犯人視する書面を作成、裁判所に出すのは、不可解と言うほかない。
 県警には、なぜ「犯人視」の書面が提出され、どんな意図があったのかきちんと調査、説明する責任がある。文書修正だけで済む話ではない。西山さん本人にも直接謝罪すべきだろう。

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