“雲海” 霧がつくる絶景 秩父盆地これから見ごろ 東京から最も近い名所

2021年9月24日 07時04分

 雲海に浮かぶ天空の橋=いずれも埼玉県秩父市で(同市提供)

 眼下に広がる雲のじゅうたん−。雲海がつくり出す幻想的な風景は、全国でも大人気だ。都心から最も近い「雲海スポット」埼玉県秩父市では、今月下旬から11月いっぱいの早朝に見られる可能性が高くなる。雲海の仕組みを知ったら、絶景と出会えるチャンスも増えるかもしれない。
 雲海の雲は、地上に近いところにできる「層雲(そううん)」や「層積雲(そうせきうん)」。落雷や竜巻を引き起こす「積乱雲」や、秋のうろこ雲「巻積雲(けんせきうん)」などとは異なる霧の仲間だ。雨雲が去った後や川面に冷たい空気が流れ込んだ時にも見られるが、盆地で発生する雲海が、最もよく知られている。
 盆地の底は夜間、地面から熱が逃げていく「放射冷却」により、ぐっと冷え込む。すると、空気に含まれた水蒸気は細かい水の粒に変化する。冷たいビールを注いだグラスに水滴が付くのと同じ現象だ。通常、雲は空に向かって上昇していくが、上空に暖かい空気があると、それ以上は昇れなくなる。こちらは、ひと昔前のお風呂で、上が熱いのに下が冷たいのと同じ。
 盆地の底で発生した層雲や層積雲は、四方を山に囲まれ、上空は暖かい空気にふたをされているため逃げ場を失い、雲海となる。「絶景スポット」最後の条件は、雲海を上から眺められる場所があること。これらの条件を満たす都心から最も近いスポットが秩父盆地だ。

市街地のネオンで夜も幻想的=秩父市提供

 秩父盆地の底辺は北と西約十五キロに広がり、雲海がより幻想的になるネオン輝く市街地もある。底辺の標高は約二百メートルで、周囲は標高約千三百メートルの武甲山(ぶこうざん)をはじめ、山や丘陵に囲まれている。三峯神社や羊山公園、秩父ミューズパークなど雲海を見下ろせる高台もある。
 秩父の雲海シーズンは秋と春。夏は昼夜の温度差が小さく、冬は乾燥するので発生しにくい。見ごろの時期には早朝から大勢の見学者が訪れる。
 雲海がブームになったのは十年ほど前から。兵庫県朝来市の山城、竹田城跡が「天空の城」として注目され、本紙でも二〇一二年に紙面に初登場した。
 美しい雲海も、盆地の底部の住民にとっては「霧」。秩父市でも雲海が発生すると、「見通しが悪くて不便」と感じる人も多いという。しかし、SNSでは、雲海に浮かび上がる橋や工場が「天空の橋」や「天空の工場」としてにぎわう。山がちな日本列島では雲海に浮かぶ絶景は多い。普段、何げなく見ている景色も、視点を上げれば「天空の○○」が浮かび上がってくるかもしれない。

◆雲海予報士も!

 秩父には「雲海予報士」を名乗る気象予報士がいる。市役所に勤める富田浩充さん(40)=写真。「せっかく来てくれた人が見られなかったら申し訳ない」と、市の業務とは別に、個人で発生確率をツイッターで発表する。予報を確認して訪れる人も多い。
 2017年から湿度や風速、気温などのデータを元に、独自に計算式を作成。毎晩午後9時すぎに発生確率を発表している。新型コロナが流行している今は発表を見合わせているが、緊急事態宣言が明けたら、再び予報を再開する予定だ。
 発表を始めた当初は「90%」との確率も発表していたが、最近は遠慮がちに高くても50〜60%。それでも、的中率は年々高まっている。「予報のおかげで雲海を見ることができました」と感想が送られてくるのがやりがいだ。
 12年まで、大手通信会社に勤め、都心で働いていた。通勤は地下鉄、勤務は夜まで。いつの間にか空を見上げることはなくなっていた。市役所に転職してから、空の広さや、幼いころから好きだった雲の魅力をあらためて感じている。「秩父の魅力をみんなに響く形で伝えたい」。そんな思いで、雲海と向き合っている。
 文と写真・布施谷航
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