「80万人分の名簿を533万円で購入」「廃棄すればバレない」 愛知のリコール署名偽造事件初公判で検察側、手口示す 被告は認否留保

2021年9月24日 22時10分
初公判を終えたリコール活動団体事務局長の田中孝博被告=24日、名古屋市中区で

初公判を終えたリコール活動団体事務局長の田中孝博被告=24日、名古屋市中区で

 愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡る署名偽造事件で、地方自治法違反の罪に問われた元県議でリコール活動団体事務局長の田中孝博被告(60)、次男で塗装業の雅人被告(29)の初公判が24日、名古屋地裁であった。両被告側は罪状認否を留保した。検察側は冒頭陳述で、田中被告が署名の偽造を細かく指示した経緯や手口を詳しく述べた。
 検察側は、署名収集開始から1カ月が過ぎた昨年9月末時点で約6000筆しか集まらず、田中被告が「リコールに必要な86万筆に遠く及ばず、署名の偽造を企てた」と指摘。10月6日に雅人被告とともに東京へ行き、愛知県内に住む約80万人分の名簿データを533万円で購入したと説明した。
 さらに、名古屋市の広告関連会社元社長山口彬被告(38)=同罪で起訴=から「代筆はだめですよね」と疑問を示された際、田中被告が「いちいち本人に確認しないし、みんな普通にやっている。成立しなければ署名簿も戻ってくるので、すぐに廃棄すれば、ばれない」と押し切ったと強調。佐賀市内で偽造した署名簿を雅人被告に運ばせた上、自ら指印を押し、雅人被告らにも押させたと述べた。
 起訴状によると、田中被告と雅人被告は山口被告らと共謀して昨年10月下旬、佐賀市内でアルバイトを使い、リコール署名簿に愛知県内の有権者計71人の氏名を書かせて、署名を偽造したとされる。
 田中被告は捜査段階では一貫して黙秘していた。今後の公判では、自らの行為が偽造に当たらないとの主張をする意向とみられる。
 山口被告の初公判は10月5日に開かれる。

 リコール署名偽造事件 美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長らが2019年の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」の展示を問題視し、実行委員会会長だった大村秀章愛知県知事のリコールを要求。リコール活動団体を組織し、約43万5000筆の署名を選管に提出した。同じ筆跡の署名や故人の署名などが大量に見つかり、全署名の83.2%が無効と判断された。県選管は偽造が疑われるとして刑事告発。愛知県警は団体の幹部ら計8人を逮捕、書類送検しており、名古屋地検はこれまでに3人を起訴している。

◆河村市長「だまされて情けない。知らなんだ」

 リコール運動を支援した名古屋市の河村たかし市長は24日午後、記者団の取材に応じ、初公判で罪状認否を留保した田中被告について「とにかく全部しゃべってもらいたい。リコール署名を熱心にまじめにやった人はたくさんいる」と語った。その上で、自身は不正に無関係だとあらためて強調し「だまされて情けない。何で気付かなかったのか。全く知らなんだ」と繰り返した。

◆大村知事「首謀者は河村市長、高須院長。全容解明を」

 愛知県の大村秀章知事は24日の記者会見で「誰が、何のためにこんなことをしたのか。お金はどこから出たのか。一連の事実関係を明らかにしていただきたい」と述べ、公判での全容解明を期待した。その上で「この活動の首謀者は河村たかし氏、高須克弥氏、田中氏。刑事被告人となった田中氏だけでなく、河村氏と高須氏も事実関係を説明していく責任がある」と強調した。田中被告が認否を留保したことについては「公判の中の話なので特にコメントはない」と述べた。

◆田中被告側が認否を留保「偽造じゃない」、長期化も

 田中被告と次男の雅人被告が、いずれも認否を留保した初公判。弁護人が検察の冒頭陳述に相次いで異議を申し立て、対決姿勢を示す場面もあった。
 検察側は約180点の証拠を提出する方針だが、弁護側は検察側の手元にある証拠計537点のさらなる開示を求めており、開示の可否や論点整理などで公判が長期化する可能性がある。
 田中被告は捜査段階で黙秘してきたが、これまでの取材に「捜査機関の『偽造』の解釈には異論がある」と話していた。刑事裁判では終盤に被告人質問が行われるのが一般的で、田中被告が自らの言葉でどう語るか注目される。
 ただ、田中被告は「自分のしたことは署名の偽造ではない」と争うとみられることから、南山大法学部の榊原秀訓教授(行政法)は「署名偽造の定義など、刑事裁判が技術的な論点に絞って行われるとすれば、市民が一番期待している全体像の解明は難しいのではないか」と話す。

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