言葉って曖昧で、難しい 『言語学バーリ・トゥード』 作家・川添愛さん(47)

2021年9月26日 07時00分

(本人提供)

 書名にある「バーリ・トゥード」は、ポルトガル語で「何でもあり」の意味。言語学を研究していた著者が、言葉にまつわる身近な話題をユーモアたっぷりにつづった十六編を収める。「気楽に読めて、気持ちが明るくなるようなものを」と期する通り、趣味だというプロレスのエピソードやちりばめられたギャグに笑い、同時に、日ごろ何げなく使っている言葉の奥深さに気づかされる。
 例えば、副題の「AIは『絶対に押すなよ』を理解できるか」は、言葉の額面通りの「意味」と、話し手が伝えたい「意図」とのずれがテーマ。言っていることと、言いたいことが正反対の例なども示しながら、人は文脈や常識から相手の言葉の曖昧さを解消して意図を推測している、と説く。だから、人工知能(AI)に<いくら言葉そのものの意味を教えても、それだけでは意図をきちんと推測するためには不十分>なのだという。
 長年、松任谷由実さんの名曲「恋人がサンタクロース」を「恋人は」だと勘違いしていたのを素材に、「が」と「は」の違いを考察する。コロナ禍で出てきた「ソーシャルディスタンス」「Go To トラベル」といった新語を導入として、ニセ英語の広がりを眺める。相手が自己卑下した時にどう反応すればいいか、との問いには、かつてテレビで見た大物歌手同士の対談のひとこまに、コミュニケーションで重要な「たったひとつの冴(さ)えたAnswer」を見いだす。
 「言葉って曖昧で、思っているより難しい。私たちは頭の中ですごく複雑な処理をしながら話したり、理解したりしているんです。人間の言語能力を過小評価することが逆に、AIやロボットに対する過大評価につながっているんじゃないか。言葉の複雑さ、面白さ、人間が無意識にやっていることのすごさ、といったことは伝えていこうと思っています」
 情報科学の理論を謎解きの物語にした『白と黒のとびら−オートマトンと形式言語をめぐる冒険』で二〇一三年にデビュー。本書は、月刊の冊子『UP』で一八年四月号から三カ月に一回、連載中のエッセーと書き下ろしをまとめた。
 連載を念頭に、最近調べているのは「死語」。なぜ人によってとらえ方が違うのか、口にした時に恥ずかしいと思うのか。「自分の中でいま、熱いテーマです」。東京大学出版会・一八七〇円。 (北爪三記)

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