梅ケ島土石流発生から55年 今でも雨の音だけで不安に…体験者が語る

2021年9月25日 17時08分
 雨の音が聞こえると、いまだ夜は眠れない。1966年9月25日の未明、台風による集中豪雨で発生した土石流が梅ケ島温泉街(静岡市葵区)を襲い、宿泊客ら26人が犠牲になった。父が始めた旅館業を今も続ける秋山宥之ひろゆきさん(82)は、現地でも数少なくなった当時を知る1人だ。(谷口武)

温泉街に建てられた慰霊塔に手を合わせる秋山宥之さん=静岡市葵区で

 温泉街を流れる安倍川はまだ澄んでいた。水かさも問題ない。発生の2時間ほど前、24日午後10時ごろのことだ。
 「大したことはなさそうだな」。当時27歳の秋山さんは思ったという。
 土曜日の夜だった。日が変わるころ、地区の見回りを終え、近所でお茶をごちそうになっていると、雨が強まってきた。
 実家の旅館「湯の島館」には10人余が宿泊し、宴会も一段落していた。

土石流で被災した温泉街(国土交通省静岡河川事務所提供)

 戻ってしばらくすると、何やらにおってきた。「上流で流された木の混ざったにおいだったんだ」。温泉街は静まり返っていた。川の水かさが増し、河床を転がる石の衝突音が消えたためだった。
 すべて、一瞬の出来事。鉄砲水が旅館の玄関の鉄板を突き破ってきた。濁流音に阻まれ、会話もままならない。宿泊客は2階の風呂場に避難させ、一夜を過ごした。1階の半分は土砂で埋まった。
 道路が寸断され、警察や消防が現地に着くのに半日以上を要した。湯の島館の宿泊客と従業員は無事だったが、川上にあった3軒の旅館は流され、宿泊客ら計26人が亡くなった。
 通常営業に戻るまで約1年かかった。温泉街では教訓として、1階に寝室を設けないことが決まった。

土石流で一階部分が埋まった旅館「湯の島館」㊨(秋山宥之さん提供)

 あれから55年。台風や豪雨の多い夏から秋季は、雨の音がするだけで不安になる。「天気予報を見て安全と分かったら、1杯飲んで寝る。確信できるまで寝られないね。たぶん、死ぬまで」
 温泉街では、直接的な体験者は秋山さんを含めて数人しかもう残っていない。秋山さんには、災害を経験したからこそ、心に留め、伝え残したいことがある。
 「避難することは常に考えておかないといけない。薬を多めにもらっておくとか、車のガソリンを満タンにしておくとか、そんなことでいい。自然災害はおっかないんだから」

 梅ケ島災害 1966(昭和41)年9月25日未明、静岡県中部を縦断した台風26号に伴う集中豪雨により、安倍川上流で発生した土石流災害。1時間の最大雨量は135ミリを記録した。旧梅ケ島村(現静岡市葵区梅ケ島)の村誌によると、温泉街の11軒が全半壊し、宿泊客や地元住民計26人が死亡した。同じ台風で、富士山北麓にある山梨県の旧足和田村(現富士河口湖町)でも土石流が発生。94人の死者・行方不明者が出た。

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