<東京大空襲 体験者の証言>都の態度に憤り、YouTubeに祖母の証言を公開

2021年9月26日 06時00分
<連載>封印されたビデオ⑥神尾守さん(49)

祖母の横谷イセ子さんの証言映像をユーチューブで公開している神尾守さん

 「祖母は証言が残ると期待して撮影に応じた。多くの人に見てもらわねばならない」。東京都品川区でパソコン教室を開く神尾守さん(49)は、2010年に95歳で亡くなった祖母、横谷よこたにイセ子さんの証言映像を動画投稿サイト・ユーチューブにアップした。
 「みんな追い詰められて隅田川にどんどん飛び込むんです。言問こととい橋のところに右からも左からも(台東、墨田両区側から)いっぺんに火が入ったんですね」
 横谷さんは都の依頼で応じたビデオ収録で、隅田川に架かる幹線道路の橋の情景を語っている。空襲当時は夫が出征しており、現在の墨田区東駒形の実家に娘と身を寄せていた。娘は後の神尾さんの母親である。
  空襲が激しくなり、娘や近くにいた妹らと避難しようとしたが、「(東の)押上方面からも(西の)浅草方面からも人の波が押し寄せてきた」。火の粉が降り掛かる中、数百メートル離れた隅田川沿いの隅田公園に逃れ、対岸の浅草方面に目をやると、焼夷しょうい弾が落ち、真っ赤に燃えるのが見えた。
 間もなくして言問橋の惨状を目の当たりにした。
 「お父ちゃん、お母ちゃん、という叫び声も聞こえた。遺体やけが人があふれ、夜が明けた時の状況は、もう忘れられないぐらいひどいものでした」
 神尾さんによると、池袋に自宅を構えたイセ子さんに都の取材陣が来たのは25年ほど前。スタッフからは「一生、残りますよ」と言われ、収録には半日以上かけた。だが、待ち続けた都からの連絡は一切、なかった。
 「祖母は『いつか出るのかね』と、ずっと気に掛けていた」。亡くなる直前に証言映像をインターネットに上げると伝えると、「いいよ」と二つ返事だったという。
 「祖母は戦争体験を引き継がなければといつも言っていた。私も引き継がれるべきだと思って公開した」と神尾さん。
 「戦争反対ときちんと言っていかないといけないし、それには体験した本人が出ているビデオを公開するのが一番いい。別の方の証言ビデオもあるなら、ぜひそれも見てみたい」
 (この連載は、井上靖史が担当しました)

◆証言者や関係者の情報をお寄せください

 この連載は、10万人が犠牲となった1945年3月10日の東京大空襲をはじめとする戦争体験者330人の貴重な証言ビデオが、9人を除き公表されないままとなっていることから、本紙が非公開の証言者を探し、記事にしたものです。
 都は96〜99年度に1億円の公費を使い、証言ビデオを収録しました。「東京都平和祈念館(仮称)」で公開する予定でしたが、歴史認識などを巡って都議会が紛糾し、祈念館の建設計画は99年に凍結されました。
 本紙は、都や都議会は公開に向けて対応するべきだと考え、今後も証言者や関係者の取材を続けます。ファクス=03(3595)6917=か、Eメール=shakai@tokyo-np.co.jp=へ情報をお寄せください。

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